息抜き
3
「え~と、これは完成でそっちもよし。あと一つだけよね」
お茶の時間に間に合うように、ちょうど食べ頃を出すのはミルフィーンのこだわりだ。もちろん、城で働く者として最善の物を用意するのは
当然のことなのだが、これだけはかなり私情が入っている。
かわいい妹とも思えるマリオンの喜ぶ顔を見たいし、カークにはこれを理由に少しでも多忙な中で休憩を取って欲しい。
そしていつも隣にいてくれた彼が緊張を解いてくれたのなら嬉しい。王族に仕えるものとして失格なのかもしれないが、身近にいる者としての気持ちで
接せられたらと思う。
最後にお皿に用意してそれぞれの所へ持っていくように揃え終えようとしたところで違和感に気が付いた。
「無くなってる」
焼き菓子の数が減っている。しかも一番最初に持っていこうと思っていたものからだ。この調理場はミルフィーン専用ともいえる場所で特定の者しか
入ることができない。同僚や調理場で働く者に頼む場合、前もってお願いするし緊急でない限りは立ち入ることもわきまえてくれている。
それを許可なしで立ち入り、焼き菓子が無くなると考えると……
「ランドルフッ」
柱の陰から体がほんの少しはみ出し、焼き菓子を頬張る音まで聞こえてくる。
「バレた?」
「当たり前でしょうっ」
小さな頃から味見と称してのつまみ食いはしょっちゅうだった。隠れる場所は決まって柱の陰。毎回、すぐに見つかって注意されていた。
「もう少しなのになんで待てないの」
今日の予定と相手の予定を照らし合わせていつお茶の時間にするのか、その時の相手方と打ち合わせてある。それを伝え聞いているはずだ。
それなのに相手を振り切ってきたに違いない。柱に隠れきれない位に立派に成長したのに、やっていることはあの頃と変わらない。
でも、それが変わらない彼でいてくれて、遠い存在にならないでいてくれることが安心するとともに自分の内にいれていてくれるようで嬉しくてたまらない。
「摘まんだ分だけ減らしておくからね」
込みあげてきたものを押さえるために吐き出した言葉に悲鳴のような声が応える。その後はきっといつものように、悲し気な顔で元に戻して欲しいと言ってくるのだろう。
繰り返されるこの時間はかけがえなく、二人だけの特別な時間だった。
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