息抜き 
    
 



「それじゃあ行ってきます」

「シェルフィス様にはお願いしてあるけど、大丈夫?」

「もう、心配性なんだから。でも、ありがとう。大丈夫よ」

「無理しないでね」

不安気に見るミルフィーンに軽く手を振ると走らない程度に足を速める。最初の頃は緊張で押しつぶされそうな心臓を抱えながら
慣れない道を歩いていたから転びそうになったり人とぶつかりそうになったりしたものだ。
でもそうまでしても行きたいと自分から思ったのは初めてだった。しかも決して愛想がいいとは言えない相手と共にする時間は苦痛すら
感じたというのに。

それでも、そこに行けば違う何かを得られた。自分でもわからないほどの高鳴るものを感じることができた。
あまりにも静かすぎる空間とそこにいる不機嫌な人に。

「そうよね、不敬罪とも言える態度だったかもね」

今思えばその反応もわかる。
それにそう思われてもシェルフィスは気にもしなかっただろうし、逆にそれを糸口にして自分の本望を叶えることさえしようとしていたかもしれない。
毎日付きまとわれ自分の仕事さえ邪魔をされ、憎しみを更に募らせることになったとしてもおかしくはない。
もちろん、マリオンにだってわかっていた。
だけど自分の奥底へと落ちていく姿を見たくなかったから疎まれても離れたくなかった、離れられなかった。
それがどこから来ているのかわからなかったけれど、その頃にはもう惹かれていたのだろう。
何かわからずにいても自然と答えが出ていた。

「不思議よね」

苦しくてもそれを上回る感情が己を支配するのにそれが何なのかわからないなんて。
でもだからこそはっきりとした答えが出ても何かを追い求めて行こうとするのかもしれない。

「よしっ」

扉の前で一度深呼吸をする。
緊張する気持ちはまだある。ただそれが解けるのはあっという間だ。扉をノックして声をかけながら入るとそこは心地の良い、素の自分になれる場所。
他の誰にも見せたくないただ一人の少女であれる場所なのだから。



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