憧れ
2
「マリオンはカーク様が本当に大好きなのね」
ミルフィーンから言われた言葉に思いっきり頷いた。
この国の第一王子で世継であるカーク兄上。少し年が離れていて一緒にいる時間も多いとは言えないけれど
いつも私を気遣ってくれた。優しくて頼りになってでも駄目な時はちゃんと叱ることも忘れない。
そんな兄上は私の自慢であり憧れでもあった。
だって私はすぐ感情的になってしまって周りのことなど気にしなくなってしまう。その為に人を傷つけてしまうことだってあるのを
兄上はちゃんと見ていてくれていたの。
「マリオンは人の心に敏感なんだ」
後悔して泣きそうになっている時も黙って傍にいてくれた。もちろん後からもう一度思い返して二度と同じことをしないようにしなさい
とは言われたけれど。でも私にとって兄上の言葉は疑いもなくて言われたことは感謝とともにうれしいことであった。
私は兄上が大好き。大好きだけどいつの間にか違う意味で大好きになった人は兄上を好きじゃなかった。
「おまえは第一王子が一番好きなのか」
聞えないほどの小さな呟き。いつものように訪れていた部屋の中で突然言われた言葉。
自分から話題をあまり振ろうともしない人なのに漏れた言葉はあまりにも意外で。
手を止めず作業を続ける横顔は少しも表情が変わりはしないのに。
「ち、違うっ!ううん、もちろん兄上は好き。好きなんだけど兄上は私にとってずっと憧れの人であって、
あんな風になりたいって思ってきたからで。好きなのは、今一番好きなのはシェルフィスだからっ!」
頭が混乱しながらも心のままに言葉を紡ぐ。
「……無理しなくてもいい」
「無理なんかしてないっ。シェルフィスが大好き!」
焼きもちめいた反応も見えるのに冷静な反応も相変わらずで余計に訳がわからなくなって不安な気持ちの余り
シェルフィスの顔を覗き込んだ。今まで兄上に反感を見せたことはあってもこんな感情を見せたことなんてなかったから。
「そんなに何度も言うな」
覗きこまれた顔を背けるようにしたが覗き見えた顔は少し赤い。
「シェルフィス?」
初めのころからは想像できなかったけど私でも思わないようないろんな表情を私の前で見せてくれるのはうれしい。
だけどシェルフィスにとっては今までにはきっとなかったことだろうから自分自身でも大変なんだと思う。
だから二人の為にも私の中だけにしまっておこう。
小さな頃から抱いてきた兄上への憧れと大好きな気持ち。変わらない大切なものをそっと。
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