憧れ
  




城へ勤めるきっかけになった人は今でも遠く手が届かない人だ。全てにおいて見習わなくてはならないことばかりで
憧れは少しも減ったりしない。仕事の最中でもふとした折りに視線が行って離れないこともしばしばだ。

「……悔しいな」

ぽつんと小さく呟かれた声にレイアは声の方へと振り向いた。

この国の第一王子で王位継承権を持つカークに護衛官として就くようになってもう大分たつが
自分の前ではいつも明るい顔しか見せないのに珍しく少し不機嫌そうな表情だ。

自分の神経が他へと行ってしまっていることに勤務怠慢だと取られたのだろうか。
この部屋は護衛官達ばかりですっかり気を緩めてしまっていたがいつ何時何があるかわからない。護衛官失格だ。
気を引き締め直してカークへ自分の失態を謝ると少しぶっきらぼうにそうじゃないと返された。

「ここなら安全だから大丈夫だ。それにレイアは今は休憩中だろう?」

「ですがあなたの傍にいるのに気持ちが緩んでいては咄嗟の折りに動けません」

「レイアは働きすぎだから少しくらい気を抜いていい。こういった護衛官の皆がいるような所だったら余計に。
 俺が言いたいのはそうじゃなくて」

珍しくすぐ言葉が続かない。

カーク様は何が言いたいんだろう?視線がある一定の場所へと向けられている?


「レイアが仕事熱心なのは俺が一番わかっている。俺がほんの少し苛立った気持ちを抱えているのはそうじゃなくて……
 レイアにはガウルが一番だってことっ!今だっていつだって!
 レイアが城へと入るきっかけも憧れているのもガウルだってことは知っている。解っているけれど、それでも俺が一番じゃない
 って言うのが悔しくて堪らないだけ」

俺だってガウルのことは好きだし頼りにしているし尊敬もしている。だけど嫌なんだと激しくいい募った後でぽつりと呟く。

いつもの落ち着いたカークとは違う少し拗ねたような子供っぽい言い方。
表情さえも本当に悔しそうでそんな所を見ていると年相応な自分と変わらない一人の人なんだって思えた。

「……悔しがることありません」

言葉と共に微笑みを添えた。あまり普段笑うことがないのでぎこちなく見えたかもしれないけれどちゃんと伝えたいから
自分なりの精一杯で応える。

「確かに軍人、一人の個人としての憧れは私にとってガウル隊長は絶対です。
 だけど女の私から見た一人の男の人としての尊敬、敬愛はカーク様あなたです」

揺るぎない気持ちが向けられる人と魅かれてやまない人。
私個人としての気持ちが魅かれ続けるのはこれから先もきっと一人だろう。それはいつまでも変わらないと思える。

「レイアってたまに性質が悪い」

顔を背けながら早口で言われた言葉はその内容に反して心に痛みを残さない。

だって

「カーク様、顔が赤いですよ」

覆ってしまった手の間から見える顔は赤く染まっている。

素直になった気持ちをちゃんと感じ取ってくれた。こんな所もきっと魅かれて行く所なんだろう。

この人を護れることが嬉しい。そう思えるようになった自分にレイアは再び微笑んだ。



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