ヴァルアスの日常
       休暇編 4



人付き合いは苦手じゃないがそれなりに気を使っていることはある。

一応警備隊長をしているから警備隊の面々との付き合いは深い部類に入ると思うが神経を使っている所も
結構あるんだよな。サーシェス達や俺自身のことは誰にも言えないことだから銀朱月の時なんて本当苦労するぜ。

ばれたらお互いに苦しむことになるからいくら親しくなってもそこら辺りは自然と線を引いてしまっていると思う。
寂しいけど仕方がない。ただそれを敏感に感じ取っているのに素知らぬ振りをして俺を気遣ってくれる奴もいる。
その気持ちに嬉しくて思わず言ってしまいたくなる時もあるが相手がそうしてくれる気持ちを裏切る訳にはいかない。

だから俺も感謝の気持ちを込めて相手と接しているんだ。

「レイス、久し振り!相変わらず忙しそうだな」

「まあね。いいようにこき使われているかな。今日は一人か?珍しいじゃないか」

たまに街でも行きあうレイスもそんな中の一人だ。
気を使わなくてもいい相手って言うのは楽だ。感性も似ているのかどうか、いつも打てば響くような言葉が返ってくるし
こっちも同じように返している。
向こうも俺と同じ気持ちなのか俺に対して変に遠慮をするといったことはないように感じるし。

「そうだ。このあと時間はあるのか?」

両手いっぱいに荷物を持っているのは相変わらずだ。
それなのにいつも文句を言いながらも結局こなしている所はさすがだな、なんて思っていたら大量の荷物を持ち直しながら
レイスが明るく声をかけて来た。

「ああ。今日はせっかくの休みなのに相手がいなくてどうしようか迷っていた所だ」

本当はフレイアと過ごしている予定だったのに用事があるからの一言であっけなくその予定も潰れた。
その用事がどんな用事か気になるところだがあまりつっこみ過ぎてもフレイアの気分を損ねることになるので
なんとか飲み込んだところだ。

「じゃあ、ちょうどいい。昼でも一緒にどうだ?」

「そういや腹がすいたな。俺はいいがおまえ時間は」

「俺も大丈夫。って言うより昼くらいゆっくり取らせてもらう。いつもは時間がなくてかきこむだけだから」

行こう、とレイスは人の間を縫って歩き出した。

フレイアの幼馴染であるレイス。フレイアや俺達に近づくことによって俺達のもう一つの姿を知られてしまう危険性も
ある訳だし本当は必要以上には接しない方がいいのだと思う。

でもフレイアが俺達以外に親しい付き合いをしているのはレイスだけだ。
フレイアにとって大切であるひととの繋がりを無闇に絶つことはしたくない。俺達だけの勝手な理由で悲しませたくは
ないんだ。たとえ俺の知らないフレイアを知っているという点で悔しい気持ちがあったとしても。

文官でありながらどちらかというと武官のような立ち居振る舞い、仕事もできるしそれなりの修羅場も潜ってきてるようだ。

俺達と会う前にはきっと全身でフレイアを守ってきたんだろう。
レイスの言動からフレイアを心の底から大切にしているのがわかる。
ただ甘やかすだけでなく厳しく接するのも本人の為を思ってやっているんだってことを。

そんなところを俺はわかるから俺はレイスとの付き合いをやめたくないんだ。
付き合い続けることによって俺自身の立場が危うくなりそうになったとしても。

「ヴァルアス、どうした?」

立ち止まったまま動かない俺を心配気な顔が覗いてくる。

きっとまた何かに悩んでいるのかって思ってるんだろうな。
なんだかんだ言っても面倒見が良くてそれでいて心配性な奴だから。

「いや、なんでもない。ああ〜腹が減ったな。行くか」

歩き出した俺が隣に立つとレイスは黙ったまま俺の肩に腕を回してきた。その腕にわずかな力がこもる。

俺はレイスに心の中で謝罪と感謝を込めながらそのまま一緒に歩きだした。



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