ヴァルアスの日常
       休暇編 3



剣を持つ者として必ず欠かせないこと。
それは武具としての役割を果たすために常に剣の手入れをしておくことだ。
武具とは何か、使う意味を知り理解することで自分の覚悟や責任を知ることにもなる。
どうやっても使わないで済むことにはならないのだから。

命の重みを背負い続ける。たまに心が押しつぶされそうになって銀朱月の時のように暴れたくなる
こともある。それでもいくつもの選択があってもこの道を選んだのは自分なのだから選んだ以上は
最善を尽くすのがけじめだと思っていた。

「よお」

「あら、隊長さん。ご無沙汰ね」

満面の笑顔で受け答えたのはヴァルアスにとってなじみの相手だ。

薄暗い部屋の中にある武具の数々。この店の主人である目の前の女性が選び抜いた逸品ばかり。
女性でありながらも武具を見る目は確かで玄人好みのものがたくさんそろっているため他にも何軒か
武具を扱う店はあったがヴァルアスはこの店の上お得意となっていた。

それにどうせならいかつい男達より見目麗しい女性の方がいいに決まっている。
今日も訓練用の剣が駄目になりかかっていたためさっそく剣を手に取り物色し始めていた。

「そういえば隊長さん」

「なんだ?」

「この間の剣はどう?気に入ってもらえたの?」

かなりの時間をかけて選ばれた細身の剣は熟練者が扱うものとしてはやや物足りなくあったが
剣を始めたばかりの者にとってはこの店の中でも上級の品となる。

目の前の本人が使うのではなければ余程大切な相手に選んだものなのだろう。

警備隊長自ら出向き贈った相手となれば武具の入手先と同じくらい店主にとって興味を抱く対象だった。

「ああ。今の所はあれでいい。気に入っているようだし」

店主へと答えながら手に剣を持ち品定めをしている。
その顔はとろけそうな微笑みを浮かべていた。

「見てられない」

「ん?何がだ?」

「隊長さん、自分がどんな顔しているか知っている?せっかくの整った顔がどれだけ崩れていることか。
 ま、それだけ剣を贈った相手のことを思ってるってことなんでしょうけど」

ため息をつきながら肩を竦める女性に対してヴァルアスはさらに頬笑みを深くする。

「もちろん。俺以上にフレイアのことを考えている奴はいないだろうな。
 フレイアだって俺のことを想ってくれているだろうし」

まるで本人を目の前にしたかのようにその瞳は優しく輝いていた。

「……ごちそうさま」

フレイアのことを話し始めたヴァルアスの頭には剣を選んでいることはどこかに飛んで行ってしまったことだろう。

そのまま延々と話し続けそうなヴァルアスにこっそりため息をつきながら女性は自分の仕事へと戻るべく
頭を切り替え始めたのだった。



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