ヴァルアスの日常
     警備隊編 2 一番身近な事件



警備隊といっても隊によってする仕事は様々だ。
その名の通り、治安を守ることが第一だが配属される場所によって仕事の割合はかなり分散される。
俺の小隊は街の治安を守ることに重点を置かれていた。魔物退治なんて大掛かりの仕事もあるが、
大抵は街での揉め事を解決することの方が多い。人がたくさんいればその分揉め事も多種多様だった。

「隊長、こっちです」

俺は部下に呼ばれて一軒の店の前に来ていた。
その客は他の客に迷惑をかけるだとかそういったことはしていないようだが部下が言いよどんでいる所をみると
どうにも困ったことになっているらしい。俺は部下に外で待つように言うと店の中へと足を踏み入れた。

夜は酒場になっている食堂はちょうど昼時のせいか狭い空間がたくさんの人でひしめき合っている。
人を掻き分け行き着いた先にいる奴を見た途端、俺は脱力感に襲われた。

「……そこで何をやっているんだ」

「よっ!久しぶりだな」

爽やかな笑顔で俺を見上げたのはフレイアの幼馴染のレイスだった。

何度かフレイアといる時に行き会い、三人で話をするようになったが文官でありながらさっぱりした性格で
すっかり意気投合し今では時々二人だけで時間を共にすることもある。
と言ってもお互いに忙しい身なので仕事の合間で行き会った時に話をしたり食事をしたりする程度だが。

それにしても忙しいはずのレイスが何故まっ昼間からこんな所にいるのだろう。
しかも、テーブルの上には酒瓶が転がっている。勤務中の時間帯でありながらいけないとわかっていて
こんな行動に出ているとは思うが、こんな態度を取るなんて珍しい。

相当思いつめたか。原因は何なのだろう。
まあ、大体見当はつくが。

「レイス、おまえ今日は休みじゃなかっただろう?勤務中の忙しい時間帯におまえらしくもない」

見つかったらヤバイだろうが、と含めて言ったが当の本人は気にした様子もなく、ヒラヒラと手を振った。

「いーの、いーの。俺がいなくったって何の心配もないって」

「ロランゲス殿は?今頃おまえがいなくって困りまくりじゃないか」

「俺がいなくったって困りゃしないさ。それどころか開放されて好きなことに没頭してるに決まってる。
 ああ、くそっ!!思い出しちゃったじゃないかっ」

「悪い。いつもより煮詰まっているようだな。でも結局気になってたんじゃないか」

「気になんてしてないさ」


と、言いながら気にしているのが表情に出ているし辺りを見回しソワソワと落着かない。

昼間からの酒は八つ当たりと唐突に盛り上がった不満からのヤケ酒だな。

まったく、本当は心配でならないのに素直じゃないんだから。


「もう昼も終わりの頃だ。そろそろ部屋に戻られているんじゃないか。
 おまえもこんな所でクダ巻いてないで仕事に戻れよ」

「え?もうそんな時間なのか……行かないと」

喋りながら立ち上がったレイスの足元がふらつく。
一気に煽ったせいと一種の開放感から酔いが速く回ったんだろう。
俺はそんなレイスを支えながら食堂の外へと促した。

「昼間っから、酒は止めとけよ。体にも悪いからな。また何かあったら話聞くから無理はしない方がいい」

「……ああ、すまなかったな。それじゃ今度頼む」

「わかった。溜め込むのは程ほどにしとけ。それとこういった所でのヤケ酒と独り言はな」

「ああっ、もう言わないでくれ。冷めてきたら段々恥ずかしくなってきた」

「フレイアに心配かけるなよ」

「その言葉、倍にしておまえに返す」

じゃあな、と言い、歩き出した横顔は酔ったせいかそれとも恥ずかしいせいなのか真っ赤に染まっていた。

街の治安を守ることはそこに住む人達を知ることでもある。
大変だと思いながらも、知らず知らずその時間が楽しいと思えるヴァルアスだった。



next   back   月と焔の物語top