サーシェス・サンフィールド編
第四話
「本当ごめんね、みんなっ」
自分達二人から仕方なくと言った感じで離れていくみんなには勢い良く頭を下げた。
久しぶりに会ったのだからおまえといろんな話をして楽しみたい。そう言ってくれた警備隊のみんな。
もその気持ちは同じだった。それに何よりこの場所はにとってとても居心地のいい場所だ。
訳隔てなく触れ合える人達と一緒に過ごしたい気持ちは強かった。
だが今回はどうしてもヴァルアスと二人で話さないといけない内容でもある。
話したくても話せない申し訳ない気持ちから再びは頭を下げた。
「気にするなよ、。話せないのは残念だけど今回きりって訳じゃないし今日は隊長に譲るさ。
ま、どうせ隊長のことだから最初っから二人きりになろうとしていただろうけどな。でも次は俺達との時間も取ってくれよ」
「たまには隊長に厳しいことでも言ってやってくれ。俺達が言ったところで聞く人じゃないからおまえが言ってくれると助かる」
口々に言いながらじゃあなと笑顔でこの場から離れていった。
「……ありがとう」
みんなの優しい気遣いに感謝をこめてはその背に言葉をかけたのだった。
*
「おまえが聞きたいことってサーシェスのことだろう」
言いづらそうにしていたの様子からヴァルアスが先に言葉を切り出す。
サーシェスから言付かったことを伝えた後、聞いても良いことなのか躊躇ったを察してのことだろう。
苦笑いしながら隣に座るへと視線を向けた。
「あいつはわかりにくい奴だからな。何かあったとしても外には出さないで本音を隠す。
弱みをみせたくないんだろう。でもこうしてが聞きに来たって言うことはそれ以外の姿も見せたってことだ。違うか?」
「う、うん」
「あいつが無意識なのかどうなのかが問題だが、まあそれは置いておいて何から聞きたい」
「教えてくれるの?」
「答えられる限りは」
ヴァルアスは髪を掻き揚げながら仕方なさそうに言った。
本当はあまり話してはいけない内容なのかもしれない。そんなヴァルアスの様子に躊躇うの頭を軽い衝撃が襲う。
「勘違いしてるんじゃないぞ。俺が話しづらいのは話自体じゃなくてそれが俺以外の奴のことだからだ。
俺のことを聞いてくれないなんて妬けるじゃないか。まあ、話せないこともないとは言わないけど」
「ヴァルアス、あの」
「遠慮しなくていい。俺はあいつに全てを縛られている訳じゃないから」
縛られていること自体はあんまり気持ちのいいものじゃないけどな、と言いながらヴァルアスは笑顔を向ける。
その様子にはいつの間にか張り詰めていた息をそっと吐いた。
「ありがとう。いざ聞こうと思ってきたのはいいけどなんかやっぱりその、聞きづらくなっちゃって。
もちろんサーシェスのことって言うこともあるけど、ヴァルアス達のことも関連してくるでしょう?
だからまた苦しめることになっちゃったら……」
「馬鹿」
「ヴァルアス!」
「だって馬鹿としか言いようがないだろう。また自分で勝手に思い悩んで。
それに俺は前に言ったよな?俺達がに何を傷つけられ苦しめられるって言うんだ?
そんなことあるわけないじゃないか。おまえは救いこそあれ、傷つけることなんて何一つないんだよ。
遠慮も気を使う必要もないさ。あ、でも逆に言えばそんなに俺達のことをいつも思ってくれているってことなんだ。それはうれしいよ」
「ヴァルアスったら」
しかめ面をしながらもの心を温かいものが満たしていく。
みんなに会えて、いろんなことを乗り越えていくことができてよかった。
全てが終ったとは言えないと思う。一時的に力を抑えられたとはいえ、いつまた元に戻るのかわからない。
空に銀朱月がある限り、不安と隣り合わせなのだから。
だけど、こうしてみんなが傍にいてくれる。笑顔を浮かべてくれるようになった。
だから後は時々寂しそうにしているサーシェスもみんなと同じ笑顔を浮かべてくれるようになって欲しい。
そう思うは真剣な表情でヴァルアスの話を聞き始めたのだった。
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