サーシェス・サンフィールド編
第二話
「う……そ」
まるで頭に直接打撃を受けたかのような、それ程突然であまりにも衝撃的なことだった。
その事実に身体が拒否反応を起こしているのだろうか。受け入れがたい言葉にふらりと体が揺れる。
「何故わざわざおまえに嘘を言わなければならない。言ったところで何の徳にもならないだろう?」
だが、ズバッと切って捨てるかのような馬鹿にしたサーシェスの言い方には代わりに精神的頭痛を覚えた。
だから、みんなあなたの側に居たがらないのよっ!
睨みつけたところで本人にはちっとも効かないし、逆に一言二言余分なことを言われてよりこっちの気分が
悪くなるに違いない。
この場はとりあえず噴出しそうな文句を堪えてただ黙ってその先を聞くしかないだろう。
もう十分衝撃は受けているけれどこれ以上の心理的打撃を自分からわざわざ受ける必要はない。
と言うか受けたくもない。せめてもの反撃になればと瞳に力を入れて見つめ返して言葉の続きを待った。
「国の規定就業期間は無事終えたのは先程も述べた。
だが、おまえは私の言葉をよく聞いていなかったようだからな。もう一度言っておこう。
。おまえは半年間ここでの就業期間を終えたが引き続き二ヶ月間このまま働いてもらう」
やっぱり聞き間違いなんかじゃないんだ!
「……最悪」
「何か言ったか」
「いいえ、何も!」
こんな時ばかりはやたらと耳がいい。
ああ、違った。こういった不満めいた言葉や行動には敏感に感じ取って反応をしてくるんだっけ。
本当、まったく。本人の性格を反映している。
「で、私はどんな仕事をするんですか?」
自分で誰の所で仕事をすればよいか選べるはずもないだろうけど、どうせなら今まで
一緒にやったことのある人とがいいに決まっている。
たくさんの初めてや苦労もあったけれど今思い返してみれば良かったなとも思えるし、何より皆優しかった。
こうして半年だとしても経験を積んできたのだ。ここに来る前とは全然違う。少しでも役に立てるはず。
「おまえには私の元で私の補佐をしてもらおう」
考え込んでいたに言葉が届いてそれを理解した後、部屋中にの悲鳴にも似た不満の声が響いたのだった。
*
自分の日頃の行いが悪かったのだろうか。
自分の考えていたことからどんどん遠ざかって行く。
半年間という期間を終えた同じ十六歳の者達は今頃待つ者のいる場所への帰路についている頃だろう。
自分だけがどうして延長をしてまでお勤めをしなくてはならないのか。
想像しかつかないがおそらくそれは彼らのいる第二国事官吏室が特別な部署であるからだと思う。
仕方がない部分もあるかもしれないがまさか自分が一番苦手としている人物と一緒に仕事を進めていかなくては
ならないはめになるとは予想だにしなかった。
「しかもなんでこんな……」
十分広い部屋でどこにも不自由に感じられる所はない。それどころか自分には勿体無いほどだ。
それなのにあまりのことに頭を抱えたくなる。
「私には自由な時間もないのかしら」
これからいる二ヶ月間、新たに与えられた部屋は予想だにしていなかった。
いや、全てに無駄を省きたくなるサーシェスのことだからこれも計算されつくした結果といえよう。
「まさか執務室の隣でサーシェスの部屋もすぐ傍だなんて思わないし」
部署の責任者であるが故、誰も反対などできはしない。
と言うより誰か反対したとしても自分の思うとおりにしてしまうに決まっている。
「まあ、身の危険はなさそうだけど。もちろん、そんなの万に一つも考えたくない。
……でもきっとこき使われてボロボロになることだけは確実ね」
先の不安を思いながらもまだ楽観的に構えていられるは遠くない未来に待ち受けている事態を
まだ知る良しもなかったのであった。
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