サーシェス・サンフィールド編
第一話
「行ってきます!」
あの日から僅か半年しかたっていないというのにもう何年もたったような気がする。
でもこれで終わり。全てが終わった。
あとは家に帰るだけ。そう。全ては終ったのだから。
銀朱の月が幾度空に昇ろうとももはや何事も起こらない。
平穏な夜が訪れ心臓を騒がせることはないだろうと安堵していたというのに。
いったい何の運命の悪戯なのだろうか。自分が関わろうとはしなくとも向こうから厄介ごとがやってくるなんて。
朱く深い銀朱の色。それは闇をもたらす破滅の色。
*
城内だというのにここはいつ来ても静かだ。
限られた者しか立ち入れないということもあるが、決してそれだけではないとはっきりと言えるだろう。
本当はだって来たくはなかったけれど、これでここに来るのも最後だと思うと少しの苦痛くらい我慢しても
よいと思えた。もちろんその時間が短ければ短いほどいいにこしたことはないけれど。
「仕方ない、か」
重厚な扉の前で足を止めてちょっと深呼吸をする。
息を吸って、吐いて。
「よしっ」
声と同時には目の前の扉をノックした。
*
部屋に入って目に映るのはいつもと変わらない光景だった。
机の上には山積みの書類、そして壁際の本棚には数えきれない程たくさんの本が整然と並んでいる。
仕事中心の部屋であって余分なものは何もないようだが部屋の片隅にはこの部屋には少し不似合いな
月のオブジェが飾られていた。淡い黄色にほんのりと朱の色が混じっている。
まるで淡黄月と銀朱月が重なり合ったような……。
「何をぼさっとしている」
不機嫌さの混じった冷たい声。
視線を向けた先にある琥珀色の瞳は声同様冷たい光を放ち反論を許さない。
「……っ」
その視線の強さに負けては開きかけた口を噤んで言葉を抑えた。
悔しい、悔しい、もう悔しいったら!!
震える体に気がついていないのか、それとも取るに足らぬこととして無視を決めているのか。
サーシェスはそんなを気にも留めず、話があると切り出したのだった。
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