リュークエルト・ドラグーン編
                第五話



軽快な靴の足音が廊下を足早に進んでいく。
鳥達もとっくに起きだして今頃は朝食の後の朝の散歩へと繰り出している頃だろう。
も朝の一通りのことを済ませ、リュークエルトの執務室へと向かっているところだ。

結局、昨日はいいのかなと思いながらもリュークエルトの言うがままに一日を過ごしてしまった。
自分は仕事をしに出てきているはずなのに、話をしないと仕事ともわからないし休憩をとらないと
能率が上がらないからと言われ、一日仕事を何もせずに終わってしまったのだ。

緊張をほぐすために気を使ってくれているのだとは思う。
でも、こういった毎日が続けば仕事もなかなか覚えられないし仕事を手伝っている意味さえあやふやに
なってしまうような気がする。
気ばかり焦ってリュークエルトに大丈夫かと聞いてみたりもしたのだがまずは環境に慣れることだとやんわりと
窘められてしまった。

は俺と話すのが嫌なのかい?」

表情を曇らせて究極の一言を言われたからにはもう何も言えなくなってしまった。
もちろんだって話がしたくないなんてことはない。むしろ彼の事を良く知るためにいろいろと聞きたいとは思う。
しかし仕事に来ている以上しっかりとやらないことには気が済まないし何より役に立ちたいのだ。
嬉しい一言をくれた彼の為に。

今までどこに行っても余所者扱いされたり自分でもどこか心の奥にそんな気持ちがあったから
それを知りながら自分を求めてくれたことが本当に嬉しかった。
だから傍にいて彼をもっと知りたいって気持ちが自然とわいてきたのではないだろうか。

心からの微笑みを見たい、支えたい、時間の許す限り共にいたいと思うのは初めてのことだけど
その欲求に身を委ねてみようと素直に従うことも悪くないに違いない。



                               *

「えっ!出かけられるんですか?」

「ああ、すまない。緊急の呼び出しがはいってしまってね」

執務室にたどり着いたを待っていたのはあわただしく出かける支度をするリュークエルトだった。
もちろん国の役人としての仕事もあるわけだから出かけることになっても当然なのだが、
今までずっと傍にいてくれた為なんだか心細くなる。
そんな我儘を抱いては駄目だとわかってはいても、隣が空いてしまう寂しさに理不尽な気持ちが沸いてきて
それを無理やり押さえつけることは少々大変だった。

「すまない、。夕方までには戻ってこれると思うから」

「いいえ。お仕事頑張って下さい、リュークエルトさま」

すまなそうにこちらを見つめてくるリュークエルトを心配させないように、は気持ちを切り替えて笑顔を浮かべた。

「ありがとう。君の笑顔を見ているとこちらまで明るくなってくる」

城での勤務はいろいろとあるから気分が前向きにならないこともあるからね、と先程までとは違い晴れ晴れとした
笑顔をへと返してきた。

「……そうだ。それと君に一つお願いがあるんだけど」

その笑顔に見惚れていたにリュークエルトが行こうと促しながら話しかけてきた。

「なんでしょうか?」

無理な事は何も言わないリュークエルトからのお願いなど思い当たる節がない。

「これから俺のパートナーになってもらうのにその呼び方は堅苦しくてちょっとね。
 俺のことはリュークと呼んでくれるかい?」

足を止め、くるりと向き直ったリュークエルトの表情は先ほどの穏やかな表情とは違い、真剣そのものだった。

まっすぐな瞳がを捉えて離さない。はその瞳に引き込まれてしまったように目を離さずにいながらも
必死で言葉を口に乗せた。

「……リュークさま?」

「リューク、と」

「そんな!できません!あなたを呼び捨てにするなんて。あなたの方が年が上ですしそれに……」

国事に携わらない一般市民が許可なく貴族を呼び捨てにすることは不敬罪に値する。
大々的な法律には決められていないが差別撤廃としながらも昔のまま残っているものは多いし
外で耳に入ったら何もなくはいられないだろう。

「本人がいいと言っていても駄目かな?せめてこの家の中だけでも」

「申し訳ありません。これは私なりのけじめなんです。お許しください」

気持ちは嬉しかったがこれ以上は駄目だと言う気持ちが歯止めをかける。
今ここで言われるままにしてしまったら、今以上に優しさを受け止めてしまったら自分の気持ちが
止められなくなってしまうだろう。
好きになりつつある相手の優しい気持ちは、時には痛みにもなるのだとは初めて知った。
そして自分の気持ちが重荷になることも。

「無理を言ってしまったね。悪かった。でも何かあったら言ってくれ。遠慮はなしだよ」

は何も言えず、ただ頷いた。

「それじゃあ行ってくる」

少し寂しげなリュークエルトの背中を後悔の気持ちを抱きながら、は彼の姿が見えなくなるまで見送ったのだった。



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