リュークエルト・ドラグーン編
                第二話



が気がついたのは柔らかなベッドの上だった。
真っ白なベッドシーツと静かな部屋。何者にも邪魔されないその心地よさの余韻に囚われ、今まで自分が
どうしていたのかを思い出せないまま、はしばらく目を開いてボーッとしてしまった。

私……なんでこんなところで寝ていたのかしら?ここは家じゃないわよね?
見慣れない部屋だけど、えーっと……。

「あーーーーっ!!」

突然、大きな声を上げるとはあわててベッドから飛び起きた。

「まずいっ!私、気絶しちゃったんだっ!あれからどれくらい経ったのっ?時間がーっ!!!」

まずい、まずいよなどとぶつぶつ言いながらは少し寝乱れた自分の外見をあわてて整える。
今のにとっては自分がどうして倒れたのか、誰が自分を運んでくれたのかなどを考えるより、
約束の時間に遅れていることの方が重要で大切だった。

「早く、早く行かなきゃ」

まるで呪文のように呟きながらドアへ向かったの目の前でコツコツとドアをノックする音が聞こえてきた。

「えっ、あ、ど、どうしたら……はっ、はいっ」

突然の出来事に対応しきれないの返事はしどろもどろになってしまったが、それでも相手にはその返事が
ちゃんと届いたらしい。重厚さからは想像できないほどスムーズにドアが開く。
小さく静かな音がこれからのここでの生活の波乱の幕開けの音となろうとはさすがににも予想はつかなかった。



                                 *                   

「おまえがか?」

しばらく事態を把握できなかったに対して、この部屋にはいってきた男性の一人が淡々と話しかけてきた。

「あ、あの……」

「私が言ったことが聞こえなかったのか?質問をしているのだが」

戸惑いながらも高圧的な言い方にカチンとくる。
高い地位につく者特有の言葉は絶対的で言い逃れを許さないかもしれないがの反抗心を沸きあがらせるのには
十分だった。だが初めの一言から喧嘩の糸口を作ることもない。ここは自分が大人の対応をと気持ちを抑え
ゆっくりと口を開いた。

「はい。今日からこちらに来るように言われましたです。
 ……ところであなた方は?私はすぐにでも約束の場所に行かなくてはならないのですが」

終始静かに話しながらも言葉一つ一つは強く出す。
自分の立場は弱いものだったが、気力だけは負けないようにと自分に言い聞かせた。

「その場所にいつまでたっても来なかったのでね。
 わざわざこうして出向いてきたのだが何か言いたいことでもあるのか?」

え、つまり、この人がひょっとして私の上司になるの?
そ、そんな、嫌よ、絶対に嫌!
やっぱり噂は本当だったんだわ。この人が上司だなんてきっと休みなく働かされるんだ!
他にいくらでも部署はあるのに何でよりにもよって?!

疲れ果てボロボロになった自分の姿が目に浮かぶ。
自分の力で打ち勝とうにもこればかりはどうにもできないとおろおろと動揺しまくっていた
そっと優しい声が降りかかる。

「心配しなくても大丈夫だよ。落ち着いて、ね」

一緒に現れたもう一人の男性が穏やかにに声をかけると、目の前の男性に向き直り諭すように話しかけた。

「サーシェス。彼女はまだこちらに来たばかりです。わからなくても当然ですし、調子も万全ではありません。
 そう強く接しないでもよいのでは。そんな態度ではあなた自身も誤解されてしまいますよ」

「誤解をされる?私は普通に接しているだけだ。
 そもそも約束を守れないから言ったまでのこと。それを注意することもできないのはおかしい」

いかにも理路整然と言い切ったサーシェスと呼ばれた男性は目の前の男性に冷たく返す。

「あなたの言い方は男に対しての言い方と同じになってしまっているんです。それでは女性は恐がってしまいますよ」

慣れているのか強い言い方に少しも動じず平然と言い返した男性は小さくため息をついた。

「誰に対しても私の言い方は同じだ。
 だが私の言い方がまずいとでも言うのなら予定通り後はお前に任せて私は早々に去ることにしよう。
 これ以上、貴重な時間をとられたくはない」

言いたいことだけいい終えるとサーシェスと呼ばれた男性は後ろを振り返ることもせず部屋から出て行った。

重苦しい雰囲気に包まれた空間から解放され自然と入っていた肩の力がすっと抜ける。
ほんの少しの時間でもあまり良いとは言えない印象を受けた彼とは極力関わりたくないと思うのは仕方がないだろう。
険しい表情で扉を見つめるだったが同時にこれからの生活の不安を感じずにはいられなかった。



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