ルティ・フェニキア編
第十五話
爆発的な光の渦が空間を覆いつくす。
その勢いにの足は地面から浮き上がり、そしてそのまま思いっ切り吹き飛ばされた。
上から叩きつけられたように地面へと落ちた衝撃で一瞬意識が遠のきかけたが轟音ともいえる音が
の意識を手放すのを遮った。
嵐といって良い程の風の中に何かがはためいているようなバサバサという音が入り混じっている。
そして風は徐々に立ち込めていた煙を吹き飛ばしていった。
「う……」
痛みを堪えながら必死に目を開き、体を起き上がらせようとしたの目の前に広がる光景。
それは自分の目を疑いたい程の信じられないものだった。
*
人が倒れている。
砕けて散らばった瓦礫があちこちに散乱し、それに埋もれるようにを襲った男達が地面へと臥していた。
意識の在る者はいない。男達の体についた傷がその激しさを物語っていた。
「あ……」
男達から目を逸らすと同時に自分の体に目を移す。
だが、不思議なことにの体には吹き飛ばされた時に負った擦り傷や打ち身程度の軽い傷しか見当たらない。
それはまるで何かがを守ったかのように事態の激しさから比べれば傷は小さなものだった。
守ってくれた……なにが?
「あ……ルティ……ルティッ!」
治まりきらない砂埃の残る視界のはっきりしない中、はゆっくり起き上がると必死にルティの姿を追い求める。
見当たらないルティの姿に焦る心臓を宥めすかせるの耳へと頭上から聞こえるはずもない男の声が届いた。
「やはりあいつは破滅をもたらす」
どう防いだのか。
他の男達が倒れているのに首謀核の男は一人傷を負いながらも自らの足で立っていた。
「何を言って……っ」
「見ろ」
男は傷ついた手をゆっくりと上げると砂埃の舞い散る空間を指差す。
影となって見え隠れするのは何かの生き物だろうか。
先程までのバサバサという音はそこから聞こえていた。
「破壊と破滅をもたらすもの。あれがルティ・フェニキアの本来の姿だ」
「…………!」
煙が晴れ、そこにいたものは嘘としか思えない幻想の生き物だった。
*
「うそ……うそよね……あれがルティなんて」
「嘘ではない。あれがフェニキア家の呪われた姿、ルティ・フェニキアの正体だ」
建物の屋根くらいまで届く姿は炎と光をまとい、オレンジの混じった金色に輝いていた。
「フェニックス……生と死を司る生きもの。永遠の命を持つと呼ばれし災いを運ぶ使者」
伝説で聞いたそのままの姿。
炎をまとっていても死すことはなく、たとえ深い傷を負い命尽きることがあったとしても
再び生まれ変わることが出来ると言う。
それ故に永遠の命を求めんとする人々から狙われ、心を含め運命さえ狂わせる破滅への死者。
それがルティのもう一つの姿?
「そのために全てをまきこんだ。何の罪のないルフィアを。それなのにあいつは一人生き続けているっっ」
男の瞳に浮かぶのは憎悪の光。
永遠の命を求める欲望など欠片も浮かばない。そこにあるのはただルティへの憎しみだけ。
「ルティ……」
それがルティだと聞かされた後は姿が変わっていてもルティだとわかった。
悲しみを湛えた深い金茶の瞳。
自分の感情を解き放つことのできない苦しみの瞳は人間の姿の時と同じだ。
未知なるものに対しての恐怖感はある。
それでもルティだから怖くはなかった。
「あれを見ろ」
轟音とともにルティの体を貫いていた剣に変化が訪れた。
剣の周囲によりいっそう高温である青い炎が燃え上がると一瞬で消え去る。
あまりに高い温度に耐え切れなかった剣が蒸発してしまったのだろう。
後に残るのは地面へと散った引き裂かれるように破れた服と姿が変わってもその下には無残な傷痕があるはずだ。
「あ……なんとも……ない?」
しかし、貫かれたはずのルティであるフェニックスの傷は消し去っていたのだった。
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