あなたを想う幸せ
             
 



今更だが本当に目が離せない。ほんのちょっと留守にしただけでこれだ。
あいつは何もしていないって言うがあまりにも自分を知らなすぎる。この状況はどう見たっていつもと同じじゃないだろう。
どこが?って言い張るのが鈍感すぎる証拠だ。

「何をイライラしているの?」

「全てにだよっ!」

あっちも、こっちも、ついでにあそこもだ。嫌な眼つきでフレイアを見てやがる。

「さっきみんなにも見てもらったんだけど、ヴァルアス、どうかな?」

そんな上目遣いするなっ。
しかも遠慮がちに聞いてくるのがよりいっそう可愛さを増してたまらない。
どうせ自分じゃ自覚もしていないだろうけれど。

「ああ、似合ってるさっ。でも、もういいだろう、着替えて来いよ」

「なに、その投げやりな言い方。本当にそう思ってる?」

むっとした表情で言葉も少し荒だたしいが、ほっとしたようにしている様がフレイアらしい。
ちゃんと言葉の真意を読み取って安心したんだろう。さっきよりも肩の力が抜けたみたいだ。

「じゃあ、着替えてくるね」

これじゃあ、式典の度に心配だ。今は警備隊の連中だけだが、式典ともなると数え切れないほどの奴らの目に晒すことになる。
何かフレイアを人目に付かないようにするいい方法がないだろうか。

「た~いちょう、目が怖いですよ~」

「いくらフレイアを他人に見せたくなくても出席は絶対ですからね。無茶は止めてくださいね」

「あんまり独占欲強いと嫌われますよ」

好き勝手言う部下を睨みながら思案する。
こいつらにも働いてもらうが、あいつらにも協力させよう。いや、あいつらに見せるのはもったいない。
やっぱり俺が誰の目にも触れさせないように守ろう。

クルクルクルクル。ヴァルアスの表情が変わる。
ただ一人の人を想う度に浮かぶ笑みは何よりも幸せに溢れたものだった。



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