あなたを想う幸せ
3
陽が空の真上にもうすぐ届くという頃、その部屋はいつもとは違う張りつめた雰囲気を醸しだしていた。
華やかとは言えない色の薬草が詰められた瓶が所狭しと作業台に並べられている。
ルティは真剣な表情で秤の上に慎重かつ何かに追い立てられるかのように何種類かの薬草を計量すると、その上に両手をかざした。
柔らかなオレンジ色の光が薬草を包み込み、一瞬で液体になった後小さな数個の粒へと変化した。
「これなら大丈夫か」
効能を損ねることなく形を変えたものはルティの特別製でめったなことでは作ったりしない。粒にすることだけなら簡単だがその場合どうしても薬としての
効き目は落ちてしまう。この特別製は簡単なようでかなり技術も魔法力も精神力もいる。
余程のことが起きない限り作りたくもない。今回は仕方がないとは思っているが、いい加減薬草そのままからでも大丈夫なようになってくれないと。
「ああ、面倒くさいな。あれも用意しないといけないのか」
苦々しそうにため息をつくと今度は鮮やかな色合いの花々が入った瓶へと手を伸ばす。
「シロップもいるか」
面倒だと言いながらも声は楽し気だ。いそいそとティーセットを用意するとワゴンへと薬と共に乗せた。
「今頃退屈がっているだろうな」
めったなことでは体調を崩さないフレイアが風邪をひいた。それだけでも気になって仕方がなかったのに、少し楽になった途端、すぐベットから起き出そうとする。
ようやく良くなってきたのだ。無理をしてぶり返すなどこちらの心臓を煽るつもりか。
最初の苦しみを見ているからそれに比べたら安心ではあるが、とにかく目を離してはいられない。
常に傍にいられたらいいのだが本来の仕事を蔑にするわけにもいかないし、それなら早く良くなるようにといろいろと試していたら新しい術やら薬やらができてしまった。
それが嬉しくもあったが、やはりこの部屋で一人で作業するのは寂しく物足りない気がする。
「いつの間にそんな風になってしまったんだろう」
一人に慣れていたのに、あのうるさくも明るい声が聞こえないことがおかしいだなんて。
いない人のことを想うだけでこんなにも心が弾んでくる。
こんな自分は自分らしくないけれど傍にいて欲しい、その気持ちに素直になりたいと思う。
「早く僕と一緒にいて……」
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