特別で大切な気持ち
1
女の子は夢を持つ。いつか大人になる日を待ち望んで。
今は無理でもいつか、いつの日か必ず大好きな人の為にきっと。
*
「特別な日、ですか?」
最近では庭に面した一角の部屋のお客としてすっかり定着したレイアがお茶を飲みながら
首を傾げていた。少々ぎこちなさは残るものの、一般の会話に(あくまで城内での)なんとか加われるようになった
レイアにはまだまだ知らない出来事が多い。しかも、一般とは言ってもごく一部の間での会話に限るが。
それでも以前に比べれば随分と砕けた感じにはなったといえるだろう。
「知らないのはごく一部の人よ。国中の人達がその日を待ちわびているんだから!
レイアは知らなかったのね」
そうじゃないかと思ってはいたけど、と呟いてため息をつくマリオンにミルフィーンは微笑んだ。
「だからこそレイア様にとって幸せな日になるのではありませんか?」
ミルフィーンの笑顔つきの言葉にマリオンも一緒に笑顔になる。
「そうね!初めてで楽しいことって緊張もするけどそれよりもうれしい気持ちのほうがきっと大きくなるわね。
じゃあ、レイア。さっそく始めましょう!」
「あの、マリオン様。始めるっていったいなにを」
「さあっ、早く。こっちよ!」
「こっちって……ミルフィーン!!」
「大丈夫ですよ」
何が大丈夫なの?!確か前の時もこんなだった、と思いながら仲の良い二人の少女に
両手を引っ張られ、レイアは困惑の表情をして成す術もなく二人の後をついて行ったのだった。
*
「はぁっ」
レイアのため息に傍を通り過ぎたご婦人が不機嫌そうな顔をして通り過ぎて行く。
いけないと思いながらもレイアは胸に溜まったもやもやした気持ちを吹き払うことができずに
困惑していた。
まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったから。
いつもは高貴な方々を警護する立場にある自分がまさか同じ位置にいるなんて。
いくら嫌だと言っても聞き入れてもらえなかった。
国中の人達がこの日を楽しんでいるのだからあなたも楽しまなくてはいけないのよ、
と言ったのは護衛騎士として護衛の任務に当たる人の妹、この国の第一王女マリオン。
それだけを聞いていればなんて傲慢で強引な、と取られ兼ねないがその言葉の奥に潜むのは自分への
気遣いと労りとも言える気持ちだとわかっていたから結局突っ張りきれなかったのだと思う。
だから、一緒の場所にいれば何かあった時の対処もできるだろうと自分を無理やり納得させた。
いくら普段の自分と違う姿をしていても、これは仕事の一部なのだと繰り返し繰り返し言い聞かせたのは
自分の気持ちを別の形に変えないため。そうでなければ自分で自分の中に沸き起こる複雑な気持ちに
対処できそうになかった。
自分では絶対に着ようとは思わない服を着て、お淑やかにしているなんて今の自分ならしようとも思わなかった。
たとえ、それが小さな頃に同じ年頃の少女といっしょに抱いた夢であったとしても。
頑なに自分でも意地を張っているのだとわかっている。
それでも護衛官としての誇り、それだけは常に持っていたかった。
そのせいで胸の一部が少し痛んでも譲れないことはあるのだから。
私が私でいるためにも毎日を平穏に過ごしていくためにもカーク王子の護衛騎士は辞められない。
彼が私をいらないと言わない限り。
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