小さなお茶会  
        
  



ある昼下がりの午後、レイアは一つの扉の前で逡巡していた。

第一王子付き護衛官としていつもならこの時間あちらこちらへとほんの少しの時間も惜しいほど奔走している。
別段そのことに不満を感じてなどいないし何かに集中している方が余分なことを考えなくて済むからその方がいいが
忙しい最中でも心に浮かんできていっぱいに占めてしまう感情が最近のレイアにはある。
それが何なのかわかっているようでわかりたくない、そんな不思議なものを抱かせる原因は自分の傍にいた。
今までは別段何の変わりもなかったのにある時を境に急にほんのちょっとしたことが気になって仕方がなかった。

そんな折に突然出された仕事、と言うよりはお願い事。困ったような顔で薄く浮かべた笑顔に心臓は変に騒ぎ始めた。
そして熱に浮かされた心身を抱えたままレイアはこの扉の前に立っている。

こちらのことは気にしなくていいから、気の済むまで付き合ってやってくれ。

その言葉を胸にレイアは覚悟を決め扉を叩いた。


                  *

「レイア様」

開けられた扉から覗いたのは柔らかな笑顔。明るい部屋と溶け込んだような優しい微笑みにレイアの溜まった緊張も
スッと解ける。それと同時に爽やかな風が頬を撫でて行った。

「ようこそおいでくださいました。どうぞ中へ」

第一王女の世話役ミルフィーンがレイアを部屋へと誘った。

入った途端に飛び込んできたのは光の洪水。それは煌びやかなものではなく、どこかホッと落ち着ける淡く穏やかな光だった。

「レイア、いらっしゃい。忙しいところ悪かったわね」

凛とした声がかかる。

今日の臨時の仕事への要請を出した本人、この国の王女マリオンが窓際に置かれたテーブルの側に立ちこちらを見ていた。
ニッコリと笑うあどけない笑顔が同じ女の立場から見てもかわいらしい。

「マリオン様。今日はどのような?」

「来たばかりでしょう。レイア、まあそう慌てないで……ミルフィーン」

「はい、マリオン様」

マリオンに軽く頭を下げるとミルフィーンは側においてあったワゴンからティーポットを手にする。
揃いのティーカップに紅茶が注ぎ込まれるのを訳がわからないまま呆然と見ていたレイアに椅子へと
腰を下ろしたマリオンが声をかけた。

「レイア、あなたの席はここよ。さあ早く座って。ミルフィーンもね」

楽しそうに言うマリオンに戸惑うが、レイア以外の二人はさっさと準備は終えたとばかりに自分が座るのを待っている。
そんな様子に気圧されながらレイアも二人に習った。

「さて、と。それじゃあ始めましょうか」

「あの……マリオン様」

「なあに?」

「これはいったい……」

「これって?」

「ですからこのテーブルの上にあるのは」

「これ?全部ミルフィーンが用意してくれたの。すごいでしょう!」

自分がやったかのように自慢げに話すマリオン。
そこにあるのは先程ミルフィーンがいれた湯気を立てた紅茶に色も鮮やかな……お菓子の数々だった。
果物のギッシリ乗ったかわいらしいものからしっかり焼き上げたシンプルな焼き菓子、透明感あふれる冷たいものまで
所狭しとテーブルの上に乗っている。

「レイア様、マリオン様……マリオンはあなたと一度ゆっくりお話をされたくてカーク様に頼まれたんです」

思ってもいなかった事態に戸惑うレイアにミルフィーンの優しい声が掛かった。

「カーク様に?」

レイアはカークが自分へここへと行くようにと言った時の言葉を思い出す。

気の済むまで付き合ってやってくれ。確かにそう言っていた。

あの時は訝しげに思いながらもてっきり仕事のことと思い込んでいたのだがまさかこのようなお茶のお誘いだとは
みじんにも思っていなかった。

「そう身構えないでね。何もあなたを捕って食おうなんて考えていないから。
 ただ、あなたはカーク兄上の傍から離れて仕事をするなんてことめったにないもの。
 だからちょっとお願いをしてみたの。最初は兄上も警戒していたけど結局許してくれたわ」

レイアを見るマリオンにからかうだとか、そんな余分な感情は入り混じっていない。
そこにあるのは純粋な好意の感情だけだった。

「レイアはミルフィーンの事も知っているわよね。
 彼女は私達3人の幼馴染であり私の大事な臣下であると同時にお友達でもあるの。そして……」

そこでマリオンは言葉を切るとテーブルにつく二人を見つめ満面の笑顔を向けた。

「私のお義姉さまになる予定だから。あ、もちろんレイア。あなたもね」



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