ただ静かに……
時間が過ぎるのは早い。
時間と言うより時が過ぎるのは早い、と言った方がいいだろうか。
年齢を重ねるごとに早くなっているような気がする。
それだけ成長した証拠なのかもしれないがまとまった時間の経ち方を気にして
振り返るようになったのも要因かもしれない。
ともかく、今年もまだ入ったばかりに感じるのにもう少しで年を越す時期になってしまった。
慌ただしくなるこれから。
気持ち的にもあまり落ち着かなくなるが優希は違う意味で気も漫ろになっていた。
「……優希、優希っ!!」
自分の耳元で大きく呼びかける声に、ぼんやりしていた意識をはっと取り戻す。
どれくらい自分を呼んでいたのだろう。弘哉の息は荒く乱れている。
やや疲れたような表情をしているがそれでも自分を見る視線はいつもと同じで穏やかだ。
そんな弘哉の様子に優希はどこかほっとした。
「どうしたんだ?」
心配を含んだ声。
普段から優しい弘哉だが優希の様子には敏感で労わりを含んだ優しさになる。
そんな弘哉の気遣いはありがたさと同時に申し訳なさを感じてしまう。
自分の勝手さに自分でも嫌気が差す時もあるが全部ひっくるめて受け入れてくれる弘哉は心の底から安心でき、
自分で認められない部分も認めてくれる、自分を許してくれる存在だった。
「大丈夫。体調はなんともないし、気分的にも悪くないわ。
ただ、もう今年も終わるんだなって思っただけ」
「さびしいのか?」
「そう……ね。そうなのかな。
あれもこれもやらなくちゃって最初は計画をたてるんだけど結局は自分の意志の弱さに負けちゃって何もできない、
何も変えられなかったって思ってしまう。なんて駄目なんだろう、また今年もできなかったって反省するのと同時に
やるせない寂しさも伴うの」
「そうか」
矛盾してるよね、って小さく呟いても余計なことは言わずに黙って聞いてくれる。
ただ傍にいてくれる。それが余計に駄目なのにって思うのに心地良さから逃れられない。
「……元気になれるところに行くか?」
問いかけながら優しく握っていた手をそっと引っ張る。
勝手ばかり言って甘えるだけ甘えて。
それなのにいつでも私の気持ちを優先してくれる。私から逃れられるのにそれをしない優しさ。
「うん。ありがとう」
止まっていた足をゆっくり前へと運び出す。
繋いだ手はそのままでもう何度も通いなれた場所、デパ地下へ。
すれ違う人は多いのに街の喧騒も聞こえない。
ただ二人の周りだけ静かで。
浮き立った気持ちもあるのにいつもと違う。
ただ、ただ静かに。
こんな幸せもあるんだなと胸が温かくなった。
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