幸せへと繋がる日 
            
 



言葉はなくても気持ちが通じ合うようになってきた。
そう思っていたのは私の思い込みだったのだろうか。

シェルフィスのあいまいな態度と言葉がマリオンを苦しめる。
その心の重さに耐え切れず、マリオンはシェルフィスに自分の気持ちをたたきつけた。

「確かに私も王族としての勤めがあるから来たい時にいつも来られる訳じゃないけれど
 でも、それ以外では私は自分の気持ちを優先している。
 溢れるほどの想いを止めることなんてできない。私はあなたといたい、あなたの隣にいたいの。
 たとえ、あなたが迷惑に感じていたとしてもっ!」

「それは……」

「そうでしょう!あなたは、何も言わなかったけれどいつも迷惑そうにしていた。私のことを邪魔だと思っていた。
 あなたの態度からそれくらい感じ取れたわ。
 私はいつも平気な振りをしていたけれど、本当は辛かったし泣きたかった。何度ももうだめだって諦めようとしたわっ」

「マリオン」

「私の名前覚えていたのね」

皮肉気な言葉が出てしまう。
出会ってから2年以上が立つけれど本当の意味での名前を呼ばれたのはほんの数回だけ。
それだけシェルフィスは自分に関心がないのかと一時期は落ち込んだ。
でも傍にいられるから平気だと無理やり思うようにしていたのに。

「あなたは私を受け入れてくれたと思っていたけれど違っていたのね。
 そして私はそんなあなたに甘えていたのかもしれない」

「…………」

「ごめんなさい」

あなたの気持ちを考えずにいた。
いいえ、違う。考えていたけれど本当の意味でわかってはいなかった。
あなたの過去は私が考えるよりもっとずっと深くてこんな短時間では癒しいえない程だった。

あなたの心にいろんな気持ちが浮かんできたらうれしいとあなたと共にいたけれど……私では荷が重すぎたのかもしれない。

「違う」

「シェルフィス?」

思いつめた、どこか切羽詰った感じの表情を浮かべシェルフィスは自分の気持ちを整頓するように
マリオンへと話し始めた。

「確かに最初は迷惑だった。誰にも関わらず一人で生きてきた俺に他人の気持ちはわずらわしいだけだった。
 だけど自分でも気づかなかった気持ちをおまえに会ってから気づかされたんだ。
 俺は、本当は疲れていた。一人でいること、強くいなくてはならないことに」

疲れていた?強くいることに?

「でもそんなそぶりは……」

「ああ、俺にだってプライドがある。
 今まで一人で何でもやってきた俺が素直に自分以外の人間に頼ることなどできるはずもないだろう?
 だが、認めたくはなくとも俺のできることなど所詮限られている。一人で抱えきれることなんてほんの一部に過ぎない。
 強がって見せても誰かが傍にいてくれる空間に慣れてしまったら元の気持ちに戻すことなんてなかなかできはしない。
 俺がおまえにいて欲しいから何も言わなかった。そうでなければおまえのことはとっくの昔に完全に突き放している。
 おまえがくることを……心待ちなんてしはしない」

「許してくれていたの?」

「何を許すんだ?許さなくてはならないことなんてない。俺はおまえに来て欲しかったんだ」

言葉と同時に瞳が合った。強い意志を持った静かな瞳。
それだけで隠されていた想いが伝わってくるようで身体中にあたたかい気持ちが広がってくる。

「マリオン」

心を射抜かれた。がんじがらめにされてしまいそうな、強い言葉と意志。

ミルフィーンとレイアの二人の幸せそうな笑顔を見ていてうれしくてでも悔しくて、
自分がそうなれないのだとしたら終わりにしたいと諦めの気持ちが自分の中を覆いつくしてしまっていた。
それなのにそんな決意の気持ちなどどこかに持っていってしまう程あなたの想いに囚われて。

もうだめだ。誤魔化すことなんてできない。
私はやっぱりあなたが

「大好き。シェルフィス、あなたの傍にいたい。あなたと違う時間を過ごしていても心はあなたを感じていたい。
 全てが同じなんてありえない。そんなことはわかっているけれどあなたと共にいろんなことを感じていきたい。
 お互いを尊重してだめなことは駄目って言ってたまには喧嘩もして一人一人の自分としてあなたと共にいたいの」

言葉がなくて不安になって、あなたの態度で胸が痛くなる。
わかっていてもやめることができない。

あなたから離れれば私は傷つかずにすむでしょう。
でもそうだとしても私はあなたに囚われてしまったから、あなたの心に触れてしまったから離れることなんてできない。

「マリオン」

耳にかすかに届くあなたの声。
かすかに震える小さな声は縋るようで、いつの間にかマリオンはシェルフィスの腕の中にいた。

温かかった。いつもの冷たい態度とは裏腹にとても居心地の良くなる温かな場所。
壊れ物を扱うようにそっと包まれたマリオンはその胸にコトンと頭を預ける。
先程まで波立っていた心が段々と納まっていくように感じた。

「……ね、シェルフィス、知ってる?今日は特別な日だってこと」

「特別な日?」

「一年に一度の特別な日。誰もが自分が大切に思う人と一緒の時間を過ごす日よ。
 あなたと出会ってからも特別な日を迎えたわ。あなたとできるなら共に過ごしたかった。
 でも、勇気がでなくてあなたの元にくることができなかったの」

「それならどうして今年は俺の元へ?」

「……諦めかけていたの。自分とあなたの気持ちに。
 だから今年が最後だったらって……」

最後まで言い終えずに思いっきり抱きしめられた。
苦しくて、言葉の続きを言うことが出来ない。

「……それ以上言わなくていい。いや、言わないで欲しい。お願いだ、マリオン」

不器用なシェルフィス。それでも今自分の心にはちゃんと気持ちが伝わってくる。
離れないで欲しい、傍にいて欲しいって。私一人だけの想いではなく二人の通じ合った想いが。

「本当に……特別な日になったわ」

幸せへと繋がる日。
これからも乗り越えていくことはたくさんあるだろうけれど今以上に待っているものもある。
これからもっともっと幸せが続いていくようにここから始めていければいい。
私達の一歩は始まったばかりなのだから。



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