息抜き
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国の第一王子であるカークは毎日執務に追われている。王子としての役割はもちろん、国を担う一人として責任を果たすべく日々奮闘中だ。
それに加えて命を狙われる危険もあるべく、己を鍛えなくてはならない。一日時間があっても全然足りないくらいだが、そんなカークにも密かな
楽しみがあった。

「カーク様、こちらでしたか」

「ああ、ガウル。すまない」

移動の合間に空いたほんのわずかな時間が疲れた心に沁みる。まっすぐと向けられた視線の先にはわき目も触れない真剣な姿が映っている。

「……わずかにぶれてきていますね」

「もうかなり続けているんだろう。ガウルは厳しすぎる」

「それは鍛錬ですからね。疲れたから油断ができたなんて言い訳にもならない」

「それはお前だから言えることだ」

この国で一番の実力者はあまりにも厳しすぎる。他の隊の隊長でさえ、ガウルの実力には遠く及ばないのだ。副隊長としてのレイアの実力はその者達に
匹敵しているといっても過言ではない。それなのに、まだだとは酷だろう。

「レイアが他の者達と同じ条件であればおまえの次である立場だろう」

「……レイアが怒りますよ」

「そうだな。だが、あまりにお前が認めないから」

「認めていない訳ではありません。ただ、レイアならそんなことは乗り越えてもっと先へと行けると思うから言っているだけです」

女性だから、という言い訳はレイアがもっとも嫌っているものだ。いつもならカークも言いはしないが、ガウルの余りの採点の辛さについ口に出てしまった。

「今の実力なら他にももっと上のものがおります。御身を守るためならその方がよいかもしれません。あなたの為にも護衛を変えられますか？」

「俺が絶対にするつもりがないことをわざわざ口にすることはないと思うが」

レイアを見ていた優しげな視線が色を変え冷たく貫く。普段は気さくな姿が一瞬にしてガウルをもってしても背筋を震えさせるものとなった。

「失礼致しました。言葉が過ぎました」

「もっと見ていたかったが時間だ……行こう」

先程までの修羅のごとき気配が消え、変わらぬ口調がガウルを促す。
視線が名残惜し気にレイアを捉える姿を見るのを見てガウルは気付かれぬよう小さく息をついたのだった。



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