昼下がりのお茶会
     
男性陣編



「兄上!」

いつも忙しい兄が供もつけずに一人廊下を歩いていた。手には花束を持って。
表情もいつもの緊張し張り詰めた感じと違い穏やかだ。
心の余裕が表情にも出ているのだろう。カークは振り向き足を止めるとランドルフに向かって微笑んだ。

「兄上、それは…」

「庭園に咲いていたから頼んで花束にしてもらったんだ。きれいだろう?」

城の要所要所に飾られた豪華で自然と視線がいくといったはでなものではない。
柔らかな色の小さな花で構成された花束は派手さはないがどこかほっとするような気持ちにさせてくれそうなものだった。

兄が個人的に花束を持ち、特別に畏まった様子もなく、むしろこんなにもうれしそうな表情をしていると言うことは……

「兄上もお茶会に招待されているんですよね。花束はそこに?」

「ああ。ひょっとしたらもう用意されているかもしれないけれどこれくらいなら邪魔にはならないだろうと思って、な」

こんな所が兄らしい。気配りがうまくさり気なく物事を運ぶことの出来るカークをとてもランドルフには真似できなかった。
ランドルフは何も持ってこなかった自分の両手を見て少し落ち込んだが吹っ切るように首を振ると気を取り直してカークを促し
歩き始める。

「今日のお茶会ですけどミルフィーンから聞きました。どうやらマリオンが最近入り浸っている図書室の主が来るようですね」

「俺もまだ会ったことはないが大変優秀だと聞く。執務に対しても熱心だそうだ。ただ……」

「王室にはあまりいい感情を持っていない、と」

「そうらしいな」

ミルフィーンから大まかにだが話は聞いた。
どうやら幼い頃にあったことが原因で王族嫌いになったらしいがこればかりは俺自身にはどうしようもないことだ。

王族という立場に立つ者は嫌われる側に回ることも少なくない。日々懸命に生きている国民からすれば贅沢をする立場の代表である
王族に何かを言いたくなってしまうだろう。俺達に悩みがなく苦労がない訳ではないがそれを説明したところで納得ができるかと言われると
そうではない。俺だって逆の立場に立てばそうなる。だから……

「これからの俺達の行動次第で同じような想いをする子供やずずっと暗い想いを持ち続ける者が出るかどうかが
 決まってしまうのですね」

今まで起こってしまったことをなかったことにはできはしない。できないから、俺達がこれからどうするかに全てがかかっている。
全てを一人一人の思い描くとおりにすることはできないが一つでも多く願いを適えることができるようにしたい。
たとえその所為で自分が苦しむことになってもだ。自分が幸せでなくて誰かを幸せにできるのかと言えばそうではないだろうから。

「兄上」

思い描いたことを決意にと変えたランドルフはふと前方を見つめ足を止めた。
廊下の先、お茶会をするという部屋の前に一つの人影が佇んでいる。この廊下は王室専用の部屋へと繋がっているため用がある者以外は
立ち入りが出来ない場所だ。

とすれば、あれがマリオンの…

「行こう、ランドルフ」

「はい」

どういう反応が返ってくるかわからない。
マリオンが心を許した相手だ。心根が曲がった人物ではないだろう。
だが心の底にあるものを簡単に変えることはできないと思う。正直聞きたくはない、見たくもないことを経験することになるかもしれない。
けれど日々が移り変わっていくように想いも留まるわけにはいかないから。

俺達は決意を込め、目的の場所へと行くために先へと進む。

たたずむ男へいっしょに部屋に入ろうと声をかけるために。



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