護衛官の誓い 
         
 



ガッッ、カラカラカラ。

床に叩きつけられた剣の音が静かな空間に重く響いた。

「参りました」

とうとうこの時が訪れてしまった。
いずれこの時がくることは認めたくはなかったにせよわかっていた。

これはまぐれなんかじゃない。一本だけでなく三本も。
私はもう彼に追いて行かれるだけだろう。
本当にそれはわかっていたことなのに簡単に認めることができなかった。

「すみません、失礼します!」

腹が立った。むしゃくしゃして頭の隅がガンガンして痛みを伴う位に許せなかった。

もう私を追いていってしまう位に走り出しているのにまだそんなことを言うのかっ!
私にはもう限界が見えているのにそれなのにまだ私を引き離そうとするのかっ!
許せない、許せない、許せないっ!!

必死で追ってくる彼から逃げる。だけどこんな所でも彼との差は縮まっていてあっという間に追いつかれた。

「捕まえたっ」

掴まれた腕を引かれるまま、彼の腕の中に囚われる。

抵抗しても逃れられない。彼から、現実から。
覚悟を決める時が来た。ゆっくりと閉じた瞳から一粒涙が零れた。



                          *

私が何年かぶりに零した涙はどうやら荒立っていた気持ちも一緒に流してくれたらしい。
自分でも不思議だが、先程とは違って穏やかな気持ちが心を占めている。
彼の思ったより大きかった身体に抱きこまれて温もりを感じたけれどそれは身体だけじゃなくて
心の大きさも一緒に与えられた気がした。

素直に女である自分を、弱い心を持っている自分を認められる。そんなことを感じさせてくれた。
彼の前では絶対に言うことはできないけれど。

彼より強い者はたくさんいる。それこそ彼の立場では考えられない人生を歩んでいる者達からすれば
彼を倒すことなど簡単な事に違いない。

けれど弱い部分のある彼を私は信じられた。

弱ければ弱いままでいい。それがわかってさえすれば進むことができる。
強い自分を追い求めていくことができる。未来(あした)へと……。

お互いが守って守られてそんな関係もいいのかもしれない。
足りない所を補ってくれる人として。

口に出して言うことはまだできないが私の心に今ここに誓おう。

カーク・セサルディ。あなたの護衛官である限り私は貴方だけを守ることを。



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