護衛官の誓い 
         
 



今まで私は力こそが全てだと思っていた。弱い者は蹴落とされ、いずれ衰退への道を辿って行く。
しかもそれは私のいた所では命にも関わることだった。力が無いがために蔑まれ、そして犯罪へと手を染める。
生きる為には仕方がないことかもしれないが、私はそれだけは絶対にするべきではないと思っていた。

変な正義感もあったものだ。
どうしようもなければ自分だってそうしていたかもしれないのにそうならなかったのはそこまで自分の境遇が
到っていなかっただけ。とても幸運なことだったのに私には何もわかっていなかった。

だから変な思想を抱いていたのだと思う。
いずれ自分は王室の騎士団に入隊して悪と呼ばれるものを無くしてみせると。
自分の力があればそれも可能なのだと自分の力に自惚れていた。

けれど自分より力がある者がいるはずが無いと思っていた訳ではない。力がその人に見合ってさえすれば
簡単に認めることができた。ただ権力をたてにして自分の実力以上に力を振りかざしているのをみるのは
我慢ならなかった。

もちろんそれをあからさまに態度で出すことはしなかったけれど頭では納得ができていないことを自分に無理やり
認めさせるのは難しい。

特にそれがこの国の権力者、後継者たる王子が相手となっては……。



                           *

「よろしくお願いします!」

少し紅潮した頬のまま私は勢いよく頭を下げた。

ようやく念願の人の傍にこれたのだ。うれしくないはずがない。
そんな私の様子に相手が苦笑しているのも全然気にならなかった。

「そう固くなりすぎるな。初日からそんな風だと疲れるぞ」

「いえ、大丈夫です!いろいろ教えてもらいたいですから」

困った、と呟くその姿も見惚れてしまう。

私、レイア・ハルトにとって目の前にいる人は護衛騎士となってからの憧れの人だった。
理想的な体形にその剣技の素晴らしさもさることながら隊を預かる者として申し分のない人間性。
いつか必ず傍に行って見せると必死で鍛錬した。

もともと女性としては大柄の骨がしっかりした体形だったせいもあってそこら辺の男には喧嘩でも簡単に
負けない自信はあったし、そうでありながら持ち合わせているスピードと身の軽さを生かして剣でも攻め入る
ことができた。

力さえあればいつか。そう信じて進んできた。
こうして護衛隊副隊長として隣に立つことができたのはその結果でもある。
ガウル隊長は私にとって全ての理想だったのだ。

だから、その隊長が心酔している相手があんなに弱くて情けないのは許せなかった。

この国の第一王子であり後の王となるはずの青年、カーク・セサルディ。
彼には絶対に負けたくはなかった。



                     *

「レイアッ」

今日も能天気と言えるほどの声が背後からかかった。
確かにこのセサルディという国は争いとは程遠く平和な国だ。私だってなにも平和が嫌だといっている訳じゃない。
ただどうしてこんなにだらけ切っているのかがわからない。
彼には彼なりの苦労もあるかもしれないがそんな感じを微塵と見せずいつも明るくて楽しそうでいいことなのに
なんだかそんな彼を見ているとイライラしてたまらなかった。

護衛官としてカークは自分が守り抜く人間に値するのかどうか。

執務をしている時はわからないが、自分の前では頼りなさそうにしか見えないから余計に自分の感情を抑えることが
できないのだろうと思う。そして何よりも苛立つのはそんなに弱いくせに私を守ろうとする態度を隠さないことだった。



                             *

キィィィィン

ガッッッ!

弾き飛ばされた剣が演習場の壁へと突き刺さる。宙を回転しながらかなりの距離を飛んだ剣はその速さのせいで
刀身の部分を傷めることなく石積みの間にうまくはまったらしい。揺れてはいたが下へと落ちることはなかった。

「すごいな……」

呆然としてつぶやいた言葉が耳に入る。だがレイアはその言葉を素直に取ることができなかった。

「私はあなたを護衛する立場にある者。これくらい当たり前です。
 むしろ勝てないようでは問題ですから」

「レイアッ!言葉が過ぎるぞっ」

「ガウル、いい」

勝てないのは本当だから。

苦笑気味に笑うカークに私は唇を噛み締め俯いた。

悔しい。自分の方が正当な立場であるはずなのにどこか負けたような少し惨めな気持ちになってしまうことが。
そんな所が彼に敵わないと思う気持ちにさせられて勝った気になれなかった。

「無礼なことを申しました。申し訳ありませんでした」

謝ってもわだかまりの気持ちがいつまでもくすぶる。そんな気持ちが積み重なって消化不良が貯まって行く

「今はレイアに勝てないがいつか勝てるようになってみせる」

約束するからと告げられた。

その言葉と微笑みが心に残る。権力という力だけを持っているはずなのにいつかそれを実現してしまうだろう
という変な期待感が私の中を支配した。

弱いだけの存在、口だけの約束。

それなのにどこか自分より強くなるだろうことを信じていた。
相反する自分の気持ちに余計に気分が悪くなって仕方がない。
この王子は自分こそが守られる存在であることをわかっているのだろうか。
いくら平和といえ、まったく危険なことがない訳ではない。それなのにこんな瞳でこんな表情で……卑怯だ。

「レイア、君を守りたい」

本当に卑怯だ。 



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