憧れと現実の狭間 
             
 



子供だと自分ではわかっているつもりだった。
もちろん大人と呼ばれる年齢の人の中には子供と同じようなふるまいをする人もいたけれど、
生きてきた年数で子供と大人に分けられてしまうことを避けることはできない。
年齢だけで全てを判断できないことを知っていても外から見えることだけで決められてしまうこともある。

年齢も外見もどこからみても年相応にしか見えない自分。
今まではそれが当たり前で仕方がないと思っていた。
でも今この時ほど子供である自分をもどかしいと感じたことはない。

目に焼き付いて離れない鮮やかな赤い色。
それは子供と大人を分ける境界線のようにマリオンをその場に縫いとめていた。



                         *

「マリオン様、庭園の散歩でもどうですか」

優しい声に丁寧なふるまい。儀礼的にではなく純粋にマリオンを誘おうとしているのがわかる。
父王が最近のマリオンの沈んだ様子を見て青年に声をかけてくれたのだ。
理由は知らなくとも普段行動的過ぎるほどのマリオンが一日どこにもいかず部屋に閉じこもっていれば
何とかせずにはいられなかったのだろう。
マリオンともなじみのある青年に声をかけ気分を変えてくれるよう頼んだに違いない。
青年に世間が勘ぐるような気持ちもなく、そんな所を知っているからこそ普段のマリオンなら
その誘いに応じていた。
だが、そんな父王の心遣いに感謝の気持ちはあったのに、それでもマリオンの気分の上昇を促すに
至ることはなかった。

「ミルフィーン嬢はおでかけですか」

いつも一緒にいるミルフィーンが傍にいないことを不思議に思ったのか辺りを見回す青年にマリオンは
こっそり苦笑した。一人だけの姿ではなく、ミルフィーンと二人でいるのが当たり前のようにとられているのかと。

そんなに自分は一人で行動できないように思われているのだろうか。

もちろんマリオンだってミルフィーンと一緒にいるのはうれしいし二人で共に楽しい時間を過ごすことは大好きだ。
でも今はそんなミルフィーンの姿を見ることが辛い。
だからマリオンを心配して出かけることを躊躇っていた彼女を少し強い口調で下の兄ランドルフの所へ行くように言った。

大人である彼女を、大人同士の付き合いができる二人をうらやましく思ってしまうから。

八つ当たりと嫉妬。
そんな自分を止められなかった。
ミルフィーンも訳がわからないなりにもマリオンの気持ちが止められないこと、気持ちをぶつけずにはいられない
気持ちを抱えていることを察してくれていた。
悲しそうな顔で何かを聞きたそうにしていたけれど、それでも聞いてもらうことも言うこともできなかった。
こんなどうしようもない意地を張っている所も子供なのだとわかっている。
それでも自分の気持ちも整理できない以上、更に気持ちをぐちゃぐちゃにはしたくなかった。

「マリオン様?」

思いに沈んでいたマリオンは静かに訪ねてきた声にハッと我に返った。
目の前の瞳が心配そうに揺れている。
黙ったままのマリオンへと伸ばされた右手が肩に触れようとした時、マリオンの身体が予告もなく
勢いよく後ろへと引かれた。

予期しない突然の行動にマリオンの身体が宙に浮かぶように不安定になって

「……シェルフィス!」

肩に置かれた手に目をやり慌てて後ろを振り返ったマリオンが見たもの。
それは倒れそうになったマリオンの背中を支えたシェルフィスの瞳が青年を強くとらえている姿だった。



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