ヴァルアスの日常
       休暇編 6



「おっ、いいもの発見!」

先程から鼻をくすぐるいい匂いが道案内をしてくれていた。
その匂いにそぐったおいしそうなものが水蒸気をたてた蒸籠の中にあるようだ。
同じように匂いに誘われてきたのかたくさんの人が買い求めようと列をつくっている。
気が急いてイライラしだしている者もいたが待ちきれずにその場で頬張っている者の顔を見て
動きかけていた足を元へと戻して視線を前へと向けるに留めていた。

「いらっしゃい」

人々の様子を面白そうに眺めていたヴァルアスは売り子の声に本来の目的のものへと視線を移した。

「うまそうだな、二つもらおうか」

「ありがとうございます。熱いから気をつけて下さい」

もうもうと蒸気の立つ蒸籠から売り子が慣れた手つきで中身をくるくるっと紙に包んでいく。

「うわっち、ありがとな」

あつあつの饅頭を注意深く受け取りながらヴァルアスは空いた片手でひらひらと手を振った。
揺れる空気に湯気が少し流れる。甘い匂いに忘れていた空腹が蘇えってきた。早歩きで人込みから抜け出すと
大きな木の下へと向かい背中を木へと預ける。

「さてと」

包みを開くと勢いよく饅頭を口の中へと入れた。

「……っ!!」

慌て過ぎたせいで口の中が熱くて堪らない。
だがそれと同時にほのかな甘みがゆっくりと広がっていく。

「うまい」

蒸したてのせいもあるだろうが丁寧に作っているのだろう。
それぞれの素材の味を感じることができる。これなら多少並んでも買う価値はあった。

「……あ〜フレイア、ごめんっ」

ほんの少し躊躇したがそう言いながら二つ目の饅頭を口にいれる。
本当はお土産にしようと思っていたのだがあまりにもおいしいので我慢出来なくなってしまった。
フレイアにはかわいそうだが今度いっしょに来た時まで待ってもらうことにしよう。

それまではばれないように隠しとおさないと。

「今度一緒に食べにこよう」

一人で食べるより二人で食べたいし、と自分に言い訳をしながら食べ続ける。

だけどそれは本当のこと。貴重な休日はフレイアと二人で。
新しいことは一人より二人で見つけた方が楽しいはずだし同じことをする時間も増える。

だからもっと夢中になれる。フレイアと過ごす時間を。



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