強さの意味



剣を初めて持った時に覚悟を決めた。逃げることなく最後まで成し遂げようと。

剣の重さは命の重さ。たとえ辛くても強くなりたいのなら重いものを背負い続けて行こうって。

「レイアって格好良いわよね」

無邪気な称賛が心に痛みをもたらす。頬笑みながら告げる言葉を素直に取れない自分がここにいる。
マリオンに他意がないのは彼女の普段の言動からわかっているのに。

「あなたは本当にその意味をわかっているのですか!」

強い口調で吐き捨てた。

王族に向かっての暴言。いくら身近に接する者で親しくすることを許されていたとしても厳罰に処せられるものだ。
それでもレイアには言葉を止めることができなかった。

「あなたは強くあろうとしているから」

咎めるのでもなく、微笑み続けるマリオンからレイアは逃げるように踵を返す。
まるで追い詰められた獲物のように心は弱く震えていた。



                     *

「どうした?今日は身が入っていないようだったな」

訓練後、流れた汗を拭いていたところ隊長のガウルから声をかけられた。
いつもならその言葉だけで自分を恥じ、責めていただろう。
だが今日はそんなガウルの言葉にも力なく俯き視線を捉える事ができなかった。

「マリオン様から聞いた」

変わらない口調にレイアの顔がはっと上がる。ぶつかる視線はいつもと同じで厳しく優しいものだ。
だが逸らすことをよしとしない強い意志のこもった瞳だった。

「マリオン様が何を……」

ガウルへと伝えたものは何だろうか。
人の想いに聡いマリオンのこと。レイアが自分へと取った態度にも何か意味があると思ったかもしれない。
自分でも見たくない心の奥底を覗かれたのかもしれないと不安が擡げてくる。
消しきれないものを消し去る様にレイアは固く瞳を閉じた。

「レイアッ!」

肩を掴まれ軽く頬に振動を感じる。ほとんど頬を撫でられたくらいの小さなもの。
ガウルの骨ばった大きな手がレイアの頬へと当てられていた。

「本当におまえらしくもない。マリオン様の言っていた通りだな」

「ガウル隊長」

「マリオン様は気さくな方でな。と言うかあの御兄弟は皆そうだが自分達がよしと思えば小さなことで騒がれることはない。
 もしおまえがあの方達への接し方を悩んでいるのなら大丈夫だ。心配することはない。
 むしろおまえが前に比べて柔らかくなったと喜んでいたくらいだからな。今更態度がどうのとか言われることはない」

「私のことをそんな風に?ならいったいマリオン様が言われたことはなんなのですか」

「自分を追い詰め過ぎていると」

「私が、ですか?」

「ああ、そうだ。今日のおまえを見てマリオン様が言われていたことが俺にもわかる。
 最近のおまえはあせっているような気がする」

頬に当てられていた手が優しく頭を撫でた。
小さな子どもにするような、少しほっとする触れ方は張り詰めていた気を分散させてくれる。

「強く」

「うん?」

「強く、なりたかったんです。ずっと強くなろうと自分なりに頑張ってきました。
 そしてあなたの隣に立つことで私は少しは強くなったと思えるようになった。
 これからも強くなり続けていけると疑いもしませんでした。それなのに」

「そうじゃなかったのか」

「強さを保てるならそれでも良かった。でもまさか弱くなるなんて考えてもみなかった」

ガウルの隣に立てるまでの強さを手に入れたけれどこの位置がいつまでも続くとは限らない。
年齢を重ねていけばどうしても男女の差は出てきてしまう。体力の差はいくら訓練をしてもいつかは埋められずに
追い越されていくだろう。
それは仕方がないことだと思っている。そこで差がつけられてしまうのなら他の所で補えばいい。
たとえそれさえ叶わぬとしても自分が自分であり続ければそんなことは些細なことだ。
心の強さだけは変わらないと信じて疑わなかったのに。

「……カーク様か」

「あの方は私の心を弱くしてしまう」

カークが自分へと微笑んでくれる度にうれしいと感じること。
護衛騎士として守らなくてはいけない立場の人に守られたいと思ってしまうこともある。
まっすぐにしか向いていなかったレイアの心を曲げてしまう程にカークは侵入してきてしまった。

「それでいいんじゃないか」

「え?」

わずかに綻んだ目元にからかう色はない。どこか安堵したようにも見えるガウルにレイアは呆然とする。

「おまえは弱いと感じるのかもしれないがそれは弱い訳じゃない。むしろ強いものだ。守るものを見つけたってことだろう。
 仕事としてではなく心から守りたいと思うもの、そして守られたいと思うもの。それは互いに強さをもたらしてくれる」

一人じゃない、二人だということがより強さを引き出す。
今までのおまえはあまりにも一人で強くいようとしていた、そのため逆に強くなろうとしているのを抑えていた
と言うガウルの表情はどこか嬉しそうだ。

「おまえは今の方が強くなっていっているぞ」

中央へと歩き出すガウルが誘うようにレイアを振り向く。腰に付けられた剣の柄に手をやるとガウルの顔が綻んだ。

「やるか?」

「はいっ」

弱さも強さへと変えていくことができる。心の持ち方一つでどれだけでも強くなっていけるのかもしれない。
剣を持つレイアの顔から迷いは消え去っていた。



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