サーシェス・サンフィールド編
第七話
フィンドリア国創世よりはるか昔、この地は荒れていた。魔物が昼夜関係なく跋扈し人々はただ怯え逃げ隠れする
だけしかできず、対抗しようにも非力な人の力では出会った次の瞬間その地に倒れ伏し、痛みと苦しみを背負いながら
命が尽きる時を迎えるだけだった。
このままでは人の命は絶やされてしまうのではないか。
人とて何もせずにいた訳ではない。過去の状況を洗い出し弱点とも呼べるものを捜しあてた。全く危険がないのでは
ないが少しの可能性が出てきたことからやがて逃げるだけでなく立ち向かおうとする者達が現れた。
それが後のフィンドリアを統べる中核となる王族と貴族たちである。
「じゃあヴァルアス達のご先祖も一緒に戦ったの?」
「いや、俺達は違う」
既に一族としての繋がりを強固としていた四家にとってそれ以外の者を立ち入らせることは不快であり自らの首を
絞めかねない行為であった。しかし同じ地に住む以上協力をしないでいればいずれ面倒なことになり兼ねない可能性
もある。仕方なく長のみが外への玄関となり知識と力を分け与えた。
「俺達四家の繋がりもこれがきっかけと言っていいだろうな。それまではお互いが存在を意識している程度だったが
協力体制を取るようになったのはこの時からだ。月との関係、一族の関係、力の関係。全てが明らかになって
その上で国との関係を築くようになった」
同じ波動というか、月を媒介として力を得ていることは接触をしなくとも感じることができるなど普通の人にできる
ことではない。警戒をしつつも他の人間達よりは同族意識を持ったのかもしれなかった。
「ただも知っていると思うが俺達は皆自分としての意識が強いだろう?
だから一つのことをやろうとしてもあらゆる方向へとことが運んでしまう。
上手くいくようにとそれぞれの一族の長がある程度暴動が起きぬよう抑えてはいたんだがその長同士の意見が
まとまらない時だってある。選ばれた者達だから思慮や忍耐や人間性はもちろんそれ相応にあるがそれ以上の難題があった」
「想像つきそう……でも難題って?」
「破壊、だ」
*
ヴァルアスの言葉にの顔が一瞬固まってしまったのをちらりと見るとその手が頭の上へと伸ばされた。
まるで宥めるように軽く叩くと続きを静かに話し出す。
「国の人間の前で見せた力は普通の人間ができる範囲のものだ。俺達の力を見せたりしたら魔物と同類の仲間と
思われてしまうからな。だがやつらの数も半端じゃなかったから俺達だけの所ではどうしても力を使わずを得ない。
そのうちこちらを集中的に狙うようになった魔物を前に俺達は力を思うがまま解放していった。
いくら数が多くても俺達の力は魔物よりも威力がある。段々とこちらが押す様になったがその結果、自らの力に溺れ
暴走する力を制御することも適わず理性を無くした破壊しくすだけの化け物となってしまったんだ」
「ヴァルアス!」
自らの先祖を化け物と言うヴァルアスの顔には何の表情も表れていない。でもだからこそにはそのことが逆に怖く
辛く思えた。
「、自らを驕り高ぶった奴にはそれ相応の報いがあるものだ。一歩間違えれば自分が自分でなくなることは代々の
一族の教えにあるのにそれを忘れてしまう者は化け物と呼ばれても仕方がない。
だがうまくできているものだな。そんな力にもちゃんと止める力が用意されていたんだ」
「あるの?!」
「その鍵がサンフィールド家なんだ。その代々の当主に力が宿る。他の三家の力を止め、それを超える力で抑え込む。
絶対の力……その力がサーシェスにもある」
確かに力があると言っていたのは聞いたことがあるが実際に見たことはない。ヴァルアスが絶対と言う位の力だ。
それは相当な力に違いない。でもそんな気配も感じたことがないのに本当にあるのだろうか?
「おまえは恐れはしないんだな」
「何を?」
「何をって……おまえらしいな。俺達を抑え込むほどの力だぞ。怖いとは思わないのか」
「だってそんな力なんて想像もつかないもの」
実際にそこに立ち会っている訳でもないから怖いのかどうかわからない。それにそうなってみたらあまり考えたくはないけど
きっとそれどころじゃないことになっているだろう。
「、やっぱりおまえが好きだよ」
「ちょっ、ちょっといきなり何!」
「ん?やっぱりだなって嬉しくなってたとこ。あの冷血審査官の傍に置いておくには不満があるけどここは公平にしないとな。
ちゃんと最後は俺の元に戻ってくるだろうし今は譲るか」
「ヴァルアス?」
「気にしない、気にしない。それより、一つ言っておく。サーシェスのことだけどあいつが自分で話すまでこの話を聞いたこと
黙ってろよ。話したとなるといろいろ気にしそうだしそれにあいつ強そうで実は打たれ弱いからな」
「あ、うん」
ヴァルアスのいつにない迫力には勢いのまま首を縦に振ってしまう。
絶対的な力の中に見える強さと弱さにサーシェスの姿がほんの少し見えた気がした。
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