月明かり



夜空に月の光が淡く輝いている。青い空が出ているようにすっきりとした空が月をより浮きだたせているのだろう。
その空の美しさに魅かれるようにミルフィーンは部屋から外へと一歩踏み出した。王室専用の庭は一日警備されているため、
不審な者は近づくことができないので安心して散策できる。眠たさより月に映える美しさをとって庭園の中へとゆっくりと歩を
進めていく。昼間とは違った景観はミルフィーンの心を満たしてくれた。

「きれい」

少し広くなった空間の片隅に植えられた木に花の蕾が所々付いている。大輪の花が咲くだろう白い蕾は月の光と夜露を
その身に乗せてほのかな淡い光と輝きを放っていた。あまりの美しさにもっと近くで見ようと近づいたミルフィーンの耳に
小さな葉ずれの音が届く。はっと顔を上げた先から姿を見せたのは彼女の幼馴染でありこの国の王子であるランドルフだった。

「やっぱりここだった」

「ランドルフ」

毎日忙しい一日を過ごしているランドルフとはここ十日ほど顔を合わせていなかった。別に待ち合わせていた訳でもないのに
どうしてここにいるのだろう。不思議に思いながらも嬉しさでミルフィーンの顔に微笑みが浮かぶ。

「どうしてここに?」

「やっと仕事の山から解放されてさ、一息つこうと思って来たんだ」

「でも私がいるのがわかっていたみたいじゃない」

「ああ、なんとなくだけどミルフィーンがここにいるような気がして」

言いながら両手を上にあげて大きく伸びをする。そのリラックスした仕草は幼いころと変わらない。

「あのさ」

勢いのまま両手を振りおろすと急にミルフィーンへと顔を近づける。
突然の間近の接近に思わず一歩足を引きながらランドルフの言葉の続きを待った。

「昔よくここに来たの覚えてる?」

「ここに?」

そう言えば若干変わっているがこの配置にもあの木にもうっすらと見覚えがあるような気がする。
広い庭園の中なのにこの空間へと出た時にどこか懐かしい感じがしたのはそのせいだったのだろう。
自然と体が記憶の片隅から拾い上げてここに連れて来たのかもしれない。

「マリオンは小さかったから一緒じゃなかったけどよく来たよな。兄上と三人で。
 本当は二人で来たかったのに二人じゃ駄目だって兄上がいつも付いて来たんだ」

困った顔をしながらも結局は駄目とは言わず付いてきてくれたカークの姿が覚えていなくても容易に浮かぶ。
小さな頃からカークは皆の頼りになるお兄さんだったから。

「やっと念願が適ったよ」

嬉しそうに微笑むランドルフの顔に曇りはない。満たされた喜びをより増すかのように月の光が優しく射しこんでいる。
昼間にはない静かな時間は記憶の底へと沈まずに心を温めてくれるだろう。
ミルフィーンはランドルフの手をそっと繋いだ。



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