特別



「う~ん、うまくいかないなぁ」

うまく纏められるように飾り気がなく短い紐にしてみたけれどこぼれた部分を入れようとすると他の髪が出てしまうし、手を緩めるとバラバラになってしまう。
こうなってしまったらもう一度最初から纏めなおすしか方法がない。

「あぁ、やっぱり切ろうかな」

元から器用な方でないとはいえ、何度やってもうまくいかないとなると落ち込みもする。手も疲れるし、時間もかかってしまうため仕事に遅れそうになるのもしばしばだ。それならいっそばっさり切ってしまった方がすっきりするし手間もかからない。

「よしっ、そうしよう」

毎日のことを考えるとその方がいいに決まっている。

勝手に髪を切るなよ。

ふと過ぎった幼馴染の言葉をミルフィーンは頭を振って追い出すと勢いよく髪をまとめ部屋を飛び出した。



                     *

「ミルフィーン、少しいいか」

昼休憩へと向かう途中、掛けられた声に振り向くと正面から見つめる静かな視線とぶつかった。

「ルド、久しぶり!」

鋭く冷たくも見える瞳を怖いと言う人もいるが、その澄んだ色は人となりを表していると思う。正面から、真摯に向き合うそんな厳しくも真面目な人。
そんなルドがミルフィーンは大好きだった。

「時間は?」

「大丈夫だけど、ちょっとルド?」

慌てるミルフィーンに構わずどんどんと先へ進んでいく。戸惑いながらも素直に付いていくと木陰にあるベンチへと座らされた。

「どうしたの」

「座っていろ」

束ねていた紐が取られ広がった髪を櫛が優しく梳かしていく。

「誰かさんが気にならないみたいだから」

「気にならない訳じゃないけど」

ゆっくり残しがないように行き来するそれは前にも見たことがある。今と同じように纏められなくて困っていた時に使われたものだ。

「それ……」

「安心しろ、俺のじゃない」

「別にそんなことは心配してないけれど」

振り返ろうとするのを頭を固定することで止められ、大きな手がつややかになった髪を丁寧に編んでいった。

「できたぞ」

鏡がないので自分の姿を見ることはできないが自分がやったより確実にきれいにできていることはわかる。
何も言わないけれど出来栄えに満足しているのはほんの少し表情が緩んでいることで感じ取れた。

「ありがとう。私もこんな風にできればいいんだけど」

「少し練習すればできるようになる」

「そうかな」

「おまえなら大丈夫」

淡々と言いながら目の前に差し出されたのは薄紅色をした布の上に載せられた櫛だった。

「これを使うといい」

「だってこれルドのじゃないの?」

「おまえ専用」

いつの間にか布に丁寧に包まれた櫛が驚き躊躇していたミルフィーンの手にそっと握らされる。

「もちろんいつでもやってやる。好きだから」

「えっ!?」

「おまえの髪に触れるのは……それだけじゃないけれど。それにあいつと同じ考えなのが気に食わないが」

小さく呟かれた言葉はめったに見られない微笑みと柔らかな視線に消され、後に嫉妬だらけのランドルフの言葉によって意味を知らされたのだった。



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