小さな願い
「きれいだ」
ぽつりともれた小さな声にミルフィーンは慌てて俯いた。顔が熱い。それに意識がどこか遠くに行っているような感じがする。
それは先程まで忙しく動き回っていたせいだけではないだろう。そんな顔を見られたくなくて顔を覆い隠そうとしたのに着慣れない服が
突っ張って邪魔をする。中途半端に浮きかけたミルフィーンの手を阻むように前から出てきた手が掴んで止めた。
「こっちを向いて」
「無理よ」
「どうして」
嫌がる理由が解っているのにわざと聞いてくる。微かな笑いを含んだ声がその証拠だ。
「ランドルフ!」
「ちゃんと見たいんだよ。俺が頼んでも着てくれなかったから」
「……だって着る必要なんてなかったんだもの」
「俺の欲求を満たしたいんじゃ駄目か。もちろんいつでもミルフィーンを見ていたいけど」
「…………!」
恥ずかしさがその言葉で一瞬どこかへと行ってしまう。真正面からぶつけられた感情は随分久しぶりのような気がする。
自分の為だなんてまるで子供の頃に戻ったみたいだ。自分の気持ちをそのまま伝えてくる自由にできたあの頃みたいに。
「さあ、手をどけて顔を上げてくれ。本当は俺の言葉で叶えて欲しかったって言うのは欲張りか」
こんな豪華な衣装を自分が着るなんてだとか動きにくいからいつもの服の方がいいだとか、そんな自分の気持ちよりも
少し残念そうな声に願いを叶えてしまいたくなってしまう。
自然に浮かんできた笑みを乗せるとミルフィーンはランドルフへと向かって顔を上げた。
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