理想のすがた



本の整理を手伝った後、いつもならすぐ自分の隣にきてたくさんの話をするマリオンが今日に限ってはこちらを見ることもなく
その場からいなくなってしまった。来た時に何か用事があるような話はしていなかったのでこの部屋にいるとはわかっていたが
どこか胸の奥がポッカリ空いてしまったような感じがする。いつの間にかそんなにもマリオンの笑顔が傍にあることに
慣れてしまったのだろう。

「俺がこんな風になるなんてな」

わずかな苦笑を浮かべながらそれでも自然とあたたかなぬくもりを求めてしまう自分を以前とは違い嫌悪することもない。
それより一刻でも早くマリオンを捜さねばと思うだけだった。

「……何を読んでいるんだ」

本棚の間、わずかな光を頼りに床に座り込み一心不乱で本を読んでいる様はマリオンらしくなかった。いかに夢中で読んでいても
その顔は楽しそうだったり悲しそうだったり感情が浮き彫りに出ている。それが今は表面に現れることなくただ読んでいるだけになって
しまっているようにみえた。

「……!」

肩がビクッと大きく上がると勢いよくこちらを振り向く。驚いた表情はあまりにも無防備で年相応の素顔が垣間見れた。

「魅力的な女性になる方法……?」

「あ、あのね、その……」

本を慌てて後ろに隠し必死に言葉を探すマリオンの顔は赤く染まっている。混乱しているのだろう。
どうしたらいいのかわからないのか口を開いては閉じるという動作を繰り返していた。

「大丈夫だ」

安心させるように頭を軽く叩く。少し涙目になっていたマリオンが縋るように仰ぎ見た。

「本に書かれていることが全て正解だと言えない」

「でも私が知っている人に全部当てはまってた」

「そうだとしても誰もが魅力的に感じるかというとそうじゃない」

「シェルフィスも全てに当てはまらなくてもいいって、思う?」

自信のなさそうな声でいて視線はまっすぐで強い。揺れていても芯は揺るがない心を持つマリオンに自分の心が伝わるようにと
瞳を逸らさずに言葉を告げた。

「相手も自分の気持ちも変わっていくものだから同じじゃなくていいと思っている。自分が惹かれるか否か、それだけだ」

いくら理想と言われる人物像がいたとしても自分が興味をひかれなくては意味がない。何をするでなく、自然と目がとまるような所、
心がとまるような所がある人が魅力的と言えるのではないだろうか。

「シェルフィス、ありがとう!」

満開の笑顔でこちらを見るマリオンから目が離せないように。



back   novel