迷い



「ミルフィーン」

追いすがる声に振り向きそうになる。

逃げたい、逃げなくてはいけない。その声が本当に自分を求めていたとしても。
ランドルフが大切ならこれ以上近づかない方がいい。そう自分に言い聞かせる。
たとえ心が悲鳴を上げていたとしても彼を本当に想うのなら逃げ続けなければならない。

いくら幼馴染でもあまりにも違い過ぎる立場。自分の気持ちを自覚した時にやっと気がついた。
いつまでもこのままでいてはいけないと。自分に向けられる笑顔を差し伸べられる手を押しのけなくてはいけないのだって。

「ミルフィーン、大好きだ」

いつでも変わらない言葉。ミルフィーンにとっては嬉しいはずの言葉なのに今はその無邪気な言葉が辛い。

「ありがとう」

淡々と告げた言葉に感情はない。感情を込めてはいけないと自然に自分に自制をかけている。
今まで笑顔で同じ言葉を返していたのにもうその言葉を言うことができなくなった。
そんなミルフィーンの言葉に目の前の顔が強張り、何も紡ぎだせない姿に胸が苦しくなる。
震える体を止めようと自分で自分を痛いほどに抱きしめても一度してしまった事実は消すことはできない。
止めてしまいたい、本当のことを言いたいと思って後悔しても踏みとどまらなくてはいけない。
ランドルフを傷つけてしまってもそれ以上の深い傷をつけることは許されない、自分で自分も許せなくなるから
自分の感情を抑えることが一番良い方法、そう思うから。

「待ってくれ!」

必死な声を背にミルフィーンの足は止まらない。振り向きたい気持ちをぐっと堪える。
振り向いてしまったらマリオンやカークに頼んで顔を合わせないようにしていたことがきっと無駄になってしまう。
溜まった涙が頬を伝ってももう決めたのだから。

「あなたを好きだと気がついたから」

幼馴染としてではなく一人の男性として好きだから。だから会えない。
これ以上苦しみたくない。迷いたくない。

「あなたから離れる」

それが最善の方法。たとえ迷い続けたのだとしてもこれが未来への道だと信じているから。

ランドルフ、今までありがとう。あなただけが好きよ。



back   novel