また今日から
呼吸をする度に白く吐き出される息。今年初めての日はこの冬一番の寒さに包まれていた。
「やっと抜け出せた」
沙耶がやや疲れた表情での元へとたどり着いた。必死に人ごみを掻い潜ってきたのだろう。
ここに来た時には艶やかに整っていた髪も途中の部分がまばらに盛り上がったりしている。
人とすれ違う時に引っかかったり擦れたりした跡が垣間見れた。
「は何にしたの?」
「ん、私はね、これにしたわ」
「幸福守?」
「そう。いろいろと考えたんだけどこれが全部入っているみたいでいいかなって。それにかわいかったしね」
ここ近年で見られるようになったお守りは巾着になっていて小さくかわいらしい。いままでは専門のご利益のお守りに
していたが特別にこれといったものもなかったので選んでみたものだ。本当にご利益があるかは本人次第だと思うが
それでも気に行ったので持っている分には全然問題はない。いつも持ち歩いているものに入れておこうと決めていた。
「そう言う沙耶はどれにしたの」
「私?私はこれ!」
どうだとばかりに差し出されたのはピンク色の一般的な形のお守り。だがそこに書いてあった文字は沙耶の心情をそのまま
表しているかのように思えるものだった。
「恋愛守?」
「そうだよ!これを持っていると彼氏ができるんだって!」
興奮したように話す沙耶を宥めながらは小さく苦笑を洩らした。神社も最近の事情に合わせていろいろなお守りを出すように
なってきた。悪くはないがそんなにたくさんの種類を作って大丈夫なのだろうか。
こんなに的に絞ったお願いをたくさんされては神様も大変に違いない。
「いつも持っていなくちゃね」
「うん、もちろん!」
元気よく嬉しそうに頷く沙耶ならきっと神様も見つけやすく願いもかなえてくれる気にもなるだろう。
そんな沙耶に微笑むと人の波を確認し問いかけた。
「この後どうする?おみくじ引いて甘酒でも飲んでいく?」
「人もさっきよりは少なくなったみたいだしね。甘酒賛成!おいしいよね!」
まずはおみくじと人の列に並ぼうとした沙耶を呼びとめるとは今日最初に会った時に交わした
言葉をもう一度願いを込めて乗せた。
「沙耶、今年もよろしくね」
next back 女だけでもいいじゃないtop