招かれしもの 
       前編



「待ってよ〜ラヴィン!」

ったく。しつこいったら!

後ろから自分を呼ぶ声を無視しつつ、イライラした足取りで進み続ける少女は足場の悪い道に差し掛かると
腰から鉄の杭を抜いて、まるで鬱憤を晴らすかのごとく、グッサリと突き立てた。

「ねえ、止めようよ。女の子が怪我したら大変だよ。ラヴィンったら!聞いてる?」

もうっ。いちいちうるさい!聞こえてるに決まってるでしょ!
いったいいつまでついて来るつもりよ!

「これ以上うるさくしたらこの杭の先があんたなんてことになるかもね」

あんまり私を甘く見ていると痛い目にあうと言う意味もこめてサウスに言ったつもりなのに。

「僕のことは気にしないでよ。手元が狂うって言うんなら僕が手を引っ張ってってあげようか」

などと、とんでもないことを言い放ってくださった。

ホンとに…ホンとにっ、いいかげんにしろっ!私はあんたをかまっている暇なんてないんだからっ!

サウスに向き直って言いたかったが、なにしろ今はがけに近い坂道を登っている最中で、
振り返っている余裕も怒鳴りつける余裕もない。
足を土に取られないよう、必死で踏ん張りながら一歩一歩前へと進む。
私でさえこんなに苦労しているのだから、サウスに至っては登りきることはまず無理だろう。

「はぁ〜やっと着いた」

ドサリと腰を叩きつけるように下ろしながらラヴィンは大きく息をつく。
顔に浮いた汗をぬぐり去るようになでていく風が気持ちいい。
やり遂げた達成感に心地よさを感じていたラヴィンの後ろから信じられない声が響いてきた。

「ラヴィン、大丈夫だった?」

心配そうな弱々しい声に私は思いっきり振り返る。

何で、何でっ、

「なんであんたがここにいるの〜〜〜!」

登りきれるはずがないのに、なんで軟弱少年が、しかも私より先に頂上にいるのよっ!

「えっ、なんでって、僕ほらっ、少しの間なら空中に浮かべるだろう?だから」

……そうだった。そういえば、サウスは空が飛べるんだった。


何でも遠い遠いご先祖様の一人が妖精だったとかなんとか。
今となっては本当かどうかはわからないらしいけど、ほんの少しとはいえ、空が飛べることは事実だ。

でも、待って。それって。

「じゃあ、あんたは私が苦労して道を登っているのを黙って見ていたと」

そう言ってサウスをジロリと睨む。


「だ、だって。ラヴィンは手を貸すと怒るじゃない。だから、黙ってたほうがいいかなって」

上目遣いにビクビクと言う。

「〜〜〜〜〜!あのねえっ!物事には臨機応変っていうことがあるのっ!
 言われるのが嫌で女の子がすることを黙ってみているだけだなんて最低!
 やっぱりあんたは軟弱サウス君だわっ!」

ああ。まったくわかってない!
本当はどうすればいいのか、それすら的確な判断さえわからないだって!
それこそ、一度痛い目にあってみればいいのよっ!!

そんな風に思った私に罪はない……と思う。

だけど、それが事実になってしまうだなんて、誰も想像できなかっただろう。
単に興味だけで頂上まで登ってしまった私にも責任はないはずだ。
でも、その痛い目に私まで巻き込まれてしまうことになるとは、今現在では知る由もなかった。



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