守るべき意味
「マリオン様、本気ですか?!」
「もちろん本気よ」
マリオンが突然自分の元へと飛び込んできたかと思うとそのままの勢いで言った言葉に驚いてしまった。
剣術を教えて欲しい。
確かに最低限必要なことだし覚えておくことに無駄はないと思う。だがマリオンの場合だとその線を簡単に
越えてしまいそうで怖い。
「お願いっ!もうレイアしか頼れる人はいないの!」
自分を真っ先に頼ってくれることは嬉しい。しかし逆を返せば他の人なら即断るだろうと睨んで自分の所へ来たとも言える。
彼女の周りの人間は甘いといえどこの申し出には断固反対するだろうから。
「お兄様方には相談してみたのですか?」
「そんなことしないわよ」
「……マリオン様」
「だって。レイアだってわかるでしょう?許してくれる訳ないじゃない」
妹を大事にしている彼らはそんなことをする必要ないと一刀両断するに違いない。
わかっているからこそ自分に頼みに来るなんてずるいと思っても仕方がないではないだろうか。
「本当にマリオン様は性質が悪い」
「今更でしょう、レイア。でもあなたなら断ることはないはずだから」
「全面賛成はしませんよ。自分の身を守る術が少しでもあることは良い事です。
ましてや王族で女であれば余計に。そう思ったから今もお話を聞いているんです」
「ありがとう!レイアならわかってくれるって思ってた。でも、でもね。私のことだけじゃないの」
「え?」
「少しでも役に立つのなら私はシェルフィスを守りたいの」
「マリオン様」
優秀だが人を近付けずどこか暗いものを背負う者。
人に関心がなく自分から何かに飛び込むことはなさそうだがだからと言って何かを引き寄せることはないとは言えない。
むしろ降りかかってくるものがあれば途端に牙をむいて襲いかかるだろう。
マリオンがシェルフィスのことをとても大切に想っていることは知っている。レイアがカークを想っているのと同じように。
その本質を知っているのかどうかまではわからないが全てを知っても意志の強いマリオンはその想いを変えることは
ないように思う。それは本人同士の問題だしそこまでは立ち入るべ気でもない。
だが
「あなたは王族なのですよ。上に立つべき者が臣下を守ってどうするんです!」
王家の血を引く者の命は国民の一人の命と比べ物にならないほど重い。
それはその立場に生まれた者の責務でもある。それなのにその命を危険に曝してまでも守るなんて許されるべきではない。
「でも兄上だって一緒よ!兄上だってあなたに危険があるのなら自分の命を顧みずにあなたを守るわ」
「やめてくださいっ!」
いつの間にか自分にとって大切な人となったこの国の世継であるカーク。
護衛官となって守るべき自分の代わりに傷つく。そんな恐ろしい事など想像したくない。
でもカークならそうしてしまうだろう。それが容易に想像出来てしまう。
「だって本当のことだもの。兄上は誰が止めてもあなたを守ることを止めないと思うわ」
「そんな……」
「ねぇ、レイア。私には兄上の気持ちがわかる。たとえあなたの方が剣技が優れていてもあなたを守ることに
関係ないの。あなたに傷ついて欲しくないから自分の気持ちのままに動いているだけ。
私も一緒。シェルフィスは自分の身を守るべき術を十分知っている。私が剣を覚えたって手助け所か邪魔になるだけ
かもしれない。だけど私は私の身を守るだけでもシェルフィスの負担を減らすことができる。
それにもし運が良ければもっとできるかもしれないしね」
にっこり笑うマリオンの奥に見える決意。それは中途半端なものではない。きちんと自分で決めて貫き通そうとする意思だった。
レイアはギュッと唇を噛みしめるとマリオンへと口を開いた。
「マリオン様、私はまだ弱い。剣の実力もそうですが何より気持ちがすぐ乱れてしまう。
こうして自分の言葉に乱され、あなたの言葉に迷ってしまう程に」
「レイア、それは」
「わかっています。あなたの気持ちもそして本当はカーク様のこともわかっているんだと思います。
だけど素直に納得することもできませんし認める訳にも行きません。
たとえ自分が嬉しいと思ったとしても本来ならそうしてはいけないことですから。
だから考えを変えることにしました」
「考えを?」
「ええ。カーク様が私を守ろうとするのならそれができない程に私がもっと強くなればいいんです。
誰も傷つくことがない程に認めてもらえるようにもっと。
あなたの言うことが全部私の中で受け入れられた訳ではありませんが私も前に進めばいいんです。
私もあなたと一緒に強くなります!」
「じゃあ教えてくれるの!?」
「一緒に強くなりましょう」
自分を貫き通せるようにもっと強く。それは決して無駄ではない。
誰もが周りを幸せにできるように、自分のできる限り全てをもっと強く。
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