休息
「カーク様っ、何をしていらっしゃるんですか!」
レイアは地面にしゃがみ込んで土をいじっていたカークの手から道具を奪い去った。
相当長いこと扱っていたのだろうか。地面を掘っていた部分には硬い土がこびり付き持ち手の所まで汚れてしまっている。
「……カーク、様」
顔を上げたカークを見た途端レイアは笑い出した。笑ってはいけないと思っているのか堪えようとしては失敗して
大きく吹き出してしまっている。常に冷静であるレイアには珍しいことだった。
「何かおかしいのか?」
「何って、顔、気付いていらっしゃらないんですか?」
顔のどこがおかしいのだろう。カークは袖を顔にあてるとグイッと擦った。袖口に黒く大きな筋が付いている。
それがそのまま顔に乗っていた事実に体が一瞬にして熱くなった。これでは子供と同じだ。普段澄ましていたとしても
今回のこれで台無しだ。レイアに笑われてしまったことがとてつもなく恥ずかしくなった。
「レイア、その、これは」
「よかった」
「え?」
「カーク様も私達と一緒なんですね。ほっとしました」
からかうようでもなく、でも笑いはまだ奥にあるのか目元が珍しく緩んでいる。
「ほっとって……当り前だろう。俺は皆と変わらないよ。汚れもするし、いろいろ気がつかないことだってある」
「そうなんでしょうけど。カーク様はいつもきちんとしていらしたから」
「それは」
決まっている。好きだと思える人の前ではいつも格好良くいたいしみせたい。
だから少し無理をしてでも背筋を伸ばしていた。
「でも……でも、そんな所もやっぱり好きですよ」
軽く微笑んですぐに背中を向けてしまったが一瞬見えたレイアの顔はうっすらと赤くなっていた。
普段あまり言葉にしてくれないのにこうして言ってくれたのはカークの気持ちを軽くしてくれるためだろうか。
その心遣いが嬉しいし自分への好意を言葉として聞くのはもっと嬉しい。
「ありがとう」
きっと今同じ言葉を口にすれば恥ずかしがるだろうから言うのは我慢しよう。
いつもと違う姿を見たいというのならばいくらでも見せることができる。たとえそれが自分にとって勇気がいることだとしても
君の前では自然のままでいたいから。
だけど気持ちだけは変わらない。いつでも君が好きだという気持ちだけは。
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