加えるものは?
香りのよいお茶を味わう様にゆっくりと口に運ぶと強張っていた肩の力が抜けたような気がした。
マリオンが手伝ってくれるようになるまでは仕事の合間に休憩を取るなど考えたこともない。
仕事をすればするほど自分を高めることができると思い違いをしていたシェルフィスに適度に力を抜いた方が
より効率がよくなる上に身体的にも負担がかからないと教えてくれた。今ではマリオンの好意に甘えこうして穏やかな時間を
過ごすことができている。だがこう思えるようになったのも頑なな自分の心を溶かしてくれたおかげだろう。
「どうした?」
ふと気が付くと目の前に座るマリオンが食い入るようにこちらを見ている。せっかく入れたお茶も一口も飲んでいないようだ。
訝しげに思いながらも皿の上に綺麗に並べられていた焼き菓子を一つ取ると口へと運んだ。軽い音と共に木の実のコクと
ほのかな甘みが口いっぱいに広がる。香ばしい匂いが鼻をくすぐり普段甘いものを食べない自分でももう一つと手が
伸びてしまうほどだ。
「どう?おいしい?」
「食べやすくて俺にはちょうどいい」
答えた途端あからさまにほっとした表情を浮かべたマリオンに日常的な事には疎いシェルフィスでもピンとくる。
「これはおまえがつくったのか」
「あ……えっと……うん」
凝ったものはなく素材を生かした素朴な菓子だったがそれは彼女そのもののを表しているようで自然と顔が綻んでくる。
自信がなさそうに答えたマリオンだったがその笑顔を見てようやく自分も笑顔を浮かべた。
「またつくってくれるか?」
「もちろん!」
嬉しそうに輝いた顔は暖かい気持ちをシェルフィスにもたらしてくれる。満たされた時間に幸福を感じながらマリオンへの
感謝の気持ちを心の中で呟きつつもう一つと皿へと手を伸ばした。
back novel