クリスマス?クリスマス!



「クリスマス、クリスマス、どこを見てもクリスマスーッ!」

街中に広がるクリスマス。
飾り付けもイルミネーションも音楽も全てがクリスマスづくし。
年々早くなる準備からようやく本番を迎えて最高潮に盛り上がっている。

「もういいかげん諦めたら」

隣で喚いている沙耶にうんざりとした様子でため息を付いていた綾香は自分の前にある紅茶にゆっくりと口をつけた。
窓際の席は外の景色を眺めるには申し分ないが暖房の入った室内でも冬の温度を直接感じさせる。
ほんの少し寒く感じた体に温かい紅茶がじんわり沁み渡り、景色の美しさも相まっていつもより余計においしく思えた。

「だって今日はクリスマスなのよっ。なのにどうして私はここにいるの?!」

他にも客はいると言うのに周りを気にした様子もない沙耶はこのまま放って置くと際限なく同じ言葉を言い続けるだろう。
綾香は仕方がないと半ば投げやり気味に言葉を返した。

「どうしてって私が誘ったからでしょ」

「そんなことわかってるわよ。だからなんでクリスマスにこうしてるかってことなのっ」

「時間空いてるからじゃない?」

「綾香〜〜〜っ、言っちゃいけないことを、言ったわね!」

最近お気に入りのケーキ屋さんでお茶をする。
それがどうして嫌なのか。
綾香はそれが嫌だとは思わないし沙耶だってこのお店のケーキを気に入っているはずなのに。

「だから!クリスマスなのに女二人でお茶しているなんて……
 今年こそは去年と違うクリスマスを迎えようって思っていたのに」

興奮気味だった声が段々小さく呟くようになっていく。

なるほど。そう言うことね。
まあ確かに沙耶がこんな落ち込んだ感じになっても仕方がないかもしれない。
去年の今は拳に力入れて誓ってたもの。
それが今年も同じ過ごし方になるなんて現実を認識したくないんだろう。
でもそれが今の状況だから考えを変えるしかないと思うけど難しいのかしら。

「私はイベントをあんまり気にしない方だからよくわからないけれどみんながみんな見た通りって訳でもないんじゃない?
 全部がカップルじゃないだろうし、クリスマスに一人でいるのが嫌だからって無理やり相手を見つけてる人もいるって言うわよ?
 それとかプレゼント目的で相手をつくるって人もいるらしいし。幸せって人それぞれだと思うけど私は自分が納得しなくちゃ嫌ね。

 沙耶はどう?ただ一人でいたくないだけで好きでもない人を恋人にしたい?一日過ごす相手にしたいの?」

「それは……確かに何とも思っていない人とは過ごしたくけど」

「だったら今日はこれで十分な過ごし方じゃない?それとも私とじゃ嫌だった?」

「ううんっ!綾香と一緒は嫌じゃないけどただ女二人でって言うのが納得いかないだけで」

「親しい人と過ごす日でいいじゃない?それぞれの理由で自分の一日が過ごせれば。でしょ?」

目の前のクリスマスケーキ。
いちごと生クリームで飾られ小さなサンタやチョコの家、砂糖で作ったヒイラギの葉が乗っている。
この日だけの特別なケーキを親しい人と一緒に食べる。それって素敵じゃない。
あ、もちろん食べるだけじゃなくて気持ちが一番大切だけどやっぱりね。
女二人だけの楽しみ方もありで私達ならケーキを楽しむことは絶対にはずせないことだから。

今年のケーキは13センチのデコレーションケーキを一つ頼んで特別に二人で食べられるようにしてもらった。
そんなこともクリスマスにしかできない特権。

「ね、沙耶。せっかく特別にしてもらったんだから食べよう?
 ほら、月もきれいだし星も出てる。イルミネーションが空に映えて綺麗よ」

「綾香……」

「女二人だけもあとどれくらいできるかわかんないんだから。ゆっくり楽しみましょう」

「うん……そう、そうだね!」

同じ気持ちを抱いていないのなら恋人なんていらない。
プレゼントだって欲しくない。
意地を張っているのかもしれない。でも意地を張り通す訳じゃない。

同じ気持ちの人を見つけて楽しく過ごす大切な日にしよう。
それが友達であれ、家族であれ、恋人であれ。
楽しく幸せな日に気持ちを込めて。

メリークリスマス!



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