恋の行方のその先は 



「ちょっ、ちょっ、ちょっと〜〜〜痛いっ、痛いったらっ!!」

秋風爽やかなある日の授業後。

部活の準備を始める生徒と家路へと向かう生徒の行き交う中、帰り支度も早々と済ませた茜ちゃんをむんずと捕まえて
私は目的地へと急いでいた。

「静香!静香ったら!もうっ、痛いから離して!」

茜ちゃんが痛さのあまりか、私に捕まれている手を私の手ごとブンブン振る。
きっと傍から見ているとさぞかしこっけいに映っていることだろう。
私はその遠心力というか、身体の揺さぶりのせいでどうにか一点集中していた意識をハッと取り戻したのだが。

「茜ちゃん〜っ!」

目的地に着いたせいかまた別の意味で興奮してしまった。

「落ち着きなさいっ。私は逃げも隠れもしないから」

「だって〜〜〜」

「だって?」

「もうこんなにギャラリーがいるなんて大誤算……いい席取り損ねたよ」

授業終って茜ちゃんを捕まえて速攻で来た筈なのにもうこんなにいるなんてさすが今人気のサッカー部。
競争率激しすぎる。
せっかく茜ちゃんに私の想い人を見てもらおうと思ったのに。

想い人……は、恥ずかしいっ。

でも、でも初めて好きになった人をこう誰かに見て知ってもらいたいって気持ち。
うん、いいよね〜!

「静香…全部言葉に出てる」

私の方がよっぽど恥ずかしいわ、と茜ちゃんが片手で顔を隠しながらそっぽを向いた。

そんな風に言われるとさすがに私もバツが悪い。

でもまあとりあえず周りには聞こえていないだろうからまあ良しとして、もう一回仕切りなおしで。

「で、茜ちゃんに私の好きな人を見てもらいたいと思って連れてきた訳なの」

「…今日までの静香の言動から薄々そんなことだろうなとは思っていたけど、よりにもよって…」

「よりにもよってって?」

「だって!このギャラリー見てよ。
 うちのサッカー部、県大会でもけっこういい所まで行ったから人気急上昇中だし、
 その中の誰かってレギュラー陣みんな人気あるわよ。
 今まで全然恋愛のれの字もなかったのに、あえて茨の道を歩きたいなんて……で?いったい誰なの?
 キャプテンの相楽さん?それともMFの美弥さん? 二人とも格好いいわよね〜!足長いし…
 あっ、でもでもGKの……」

「茜ちゃんっ、落着いてっ。 格好いい人の宝庫ってのもわかるからっ。
 だからお願い。私の話も聞いてよ〜」

なんか話している間に茜ちゃんの方が気持ちを高ぶらせちゃって。
私を心配してくれているのはわかるんだけど、何か方向がずれてきているような。
うん。確かに眼福というか夢中になるのもわかるけど。

「私、サッカー自体、好きなんだ!
 飛び散る汗、激しい息遣い、さわやかな笑顔っ! これぞ青春って感じで最高っ!!
 あ、もちろんこれは特に高校サッカーには重要な点であって、他には…」

「ちょっと、静香。ストップッ!!
 わかったっ。サッカーが好きって言うのは十分伝わったからっ。
 静香さんっ!お願い、戻ってきてっ!!」

うっ、いけないいけない。つい。でも、これからいい所なのに。

「あ、ああ。 ごめんごめん。
 どうもサッカーの話になるとこう、なんというか、タガが外れるっていうか」

「まあ、それはまた別の機会にでも。(顔をひきつらせつつ)
 で、結局静香のお目当ては誰なの」

「ふふふっ。よくぞ聞いてくれました。
 私が初めて好きになった人っ。じゃ〜ん、あの人ですっ」

そう言って私はビシッと右手を指した。

その先には…

「…誰」

「だから彼よ」

「どの彼なの」

「あそこの彼よ」

「まさかと思うけど…あの落ち着きのない?」

「まさに彼よっ」

落ち着きがないなんてとんでもないっ。
ピッチに立つ選手の動きに合わせて自然と動く体、視線。
それは常に考え、イメージトレーニングもしている証拠。
自分がピッチに立ったのならどう攻めてどう守るのか。
シュミレーションをしているだろうその姿を見ているとうーん、さすがと思うわ。

「だって静香。 あれってレギュラーじゃないどころか1年生じゃないっ。
 それに体格的にもちょっと…」

「チッチッチッ。甘いわね、茜ちゃん。
 よく見てよ。あの首の太さ、肩幅、足の大きさ。
 これからグングン伸びるわよ〜。
 背はもちろん、骨格もきちんとしているからバランスよく体も出来てくるだろうし、
 それに練習見るとわかるけどテクニックもしっかりしているしね。来年は絶対にレギュラー確実よ。
 あと一年。卒業までになんとかして見せるわ。っていうか、これぞ先物買いってことで固定ファンがつく前に
 攻めて攻めて攻めまくるわよっ!」

「静香〜」

ああ、静香が壊れてるって言葉が茜ちゃんの口からもれてるけど。

いくら年下だろうと、現在レギュラーでなかろうとも。
関係ないし、気にするだけ気力がもったいない。
私は彼の練習中の態度や先輩や仲間に対しての気遣いに好感を持ったんだし、それに何といってもあの笑顔に一目ぼれしたんだからっ。

あの邪気の無い感情あふれる笑顔に!

だから躊躇う暇も惜しんで

「行動あるのみよっ」

思わず拳を握り締めて言った私の一言に茜ちゃんは思いっきり深いため息をついたのだった。

さてこの恋の行方は果たして?

                                                                  10000hi達成記念 

next   novel