恋に限りはないけれど 
      恋の行方のその先は 続編 


「ちょっと静香。何やってんの」

授業後の誰もいなくなった教室。

一向に来ない静香を探しにやってきた茜は一人黙々と一つのことに集中し続けるその姿に呆然と佇んだ。

「あ、茜ちゃん」

無邪気に微笑んでいるが、その頭の中には今日一緒に帰る約束をしていたことなど
ちらっとも残っていないだろう。
こちらを見ながらも先ほどからの動作を止めない静香をある意味感心して見ていた茜だったが、
いけないと自分を戒めると静香へと口を開いた。

「静香、ストップ!」

急に大きな声を出した茜に静香はビクッとすると今まで動いていた動きが止まった。

そして

「あーっ」

静香の悲鳴と共に茜の足元をボールが無情にもコロコロと転がっていった。


                   *

夕暮れに向かって先を歩く背中。
肩がほんの少し上がり、強張っている。
そんな後姿に茜は小さくため息をつくと半ば苛立ちと呆れを交えた声をその背にかけた。

「静香」

「……」

「静香ったら、いいかげんにしなよ」

「……」

「そりゃいきなり声をかけたのは悪かったわよ。
 でも私だったから良かったけどいきなり入ってきたのが他の人だったらどうなってたと思う?」

「……茜ちゃん」

「静香だってわかってるでしょ。さすがにあれはちょっとまずいって」

「……うん。ごめん、茜ちゃん。わかってたんだけど、つい……」

語尾が小さくなっていく静香の声には反省の色が含まれている。

本人だってもちろん茜が注意した意味くらいわかっているだろう。
それでも納得いかないって理由も茜にはわかる。
でも、それでもだ。

「さすがにあれはねぇ」

待ち合わせを忘れていたことくらいどうってことない。
でも、いきなり教室から聞こえてきた音に慌てて扉を開け、目に飛び込んできた光景。
それはちょっと茜の範疇を超えるものだった。

「いくら静香がサッカーファンで好きな人がサッカー部だとしてもひくわよぉ」

なんてったって膝より上の短くなったスカートをはいたままリフティングをしていた姿には。
でも、それだけだったらまだやめなさいって言葉だけで済んだんだけど顔はニコニコというよりニヤニヤ。
小さくブツブツと呪文のように彼の名前を呟きながら一人黙々と薄暗い教室の中でリフティングをやっているのは……かなり怖い。

「さすがの私でもドキドキしたわ」

「ごめんってば」

つい彼の姿を窓から見ていたらやりたくなっちゃったの、って言う静香の表情は先程までの鬼気迫るものから
普段のかわいらしい表情に戻っていた。

「好きなのはいいけど、今度からは人目につかないようにやってね」

「了解!」

本当は止めて欲しいけど言って止める静香でもなし。
今更それくらいのことで戸惑っていたら友達なんて続けていられないし。

「一途なのが静香の良い所だから」

「ありがとう、茜ちゃん」

今回は一途とはちょっと違うような気もするし、例え一途だとしても要注意で危ないけれど
やっぱりそれも含めて静香なのだと思えるから。

人様の注目を集めるのは決して悪くはない。
けれどこちらの心臓に悪いことだけはもう少し控えて欲しい。
茜とのやり取りに一区切り付いて胸のつかえが落ちたのか、こちらの心中など察せず
鼻歌など歌いながら先を行く静香の姿に茜は深いため息をついたのだった。



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