重なり合うもの



護衛官には定期的に試験のようなものがある。城の警備だけに当たる警備兵とは違い個人を守ることを対象とするためあらゆることに
精通していなくてはならない。
武力はもちろん、文官まではいかなくともある程度の知識や見識は必要だ。実力を重ね一人で傍に付くようになればその付いた相手自身や背後関係、
実務に関してのことまで覚えておかなければならない。その地位が高くなれば高くなるほど求められるものは膨大になる。だがそれを為し得ることこそ
護衛官の誉れであり誇りでもあった。その為少しでもそれが陰るようなことがないよう公正な場でその実力が錆びていないかを計られるのだ。
護衛官のどんな地位にあろうと変わりはない。知力と武力。護衛官たる者の根源であった。



「レイアなら大丈夫よ」

「レイア様なら見事に務められます」

先程から一言も発さず座っていたレイアが深く息を吐いたのを緊張していると思ったのだろう。強張った顔で声を掛けてきた二人の少女の素直な励ましに
自然と小さな笑みが口に浮かぶ。それぞれこなさなければならない職務もあるだろうにわざわざこうして出向いてくれたことが言葉以上のものを感じられて
嬉しかった。

「ありがとうございます。意識しすぎないようにしていましたがそんなに固くなっていましたか」

武力の実力審査は武器を使っての守りだけでなく、自分がいかにして護衛対象者を守りながらその場を抜けられるかなど想定外のことに対しても
試されることになる。レイアの場合、護衛対象者が王族の為その内容も通常より厳しい。体を固くしていてはとっさのことに対応できないためあえて
普段通りにしていたのだがどうやら裏目に出たようだ。こんなことなら今からでも遅くない。体を解しておこうと立ち上がったレイアの耳にこの場にいる
はずもない人の声が飛び込んできた。

「もうすぐだな」

「来るだろうとは思っていましたけど本当に来られるなんて」

マリオンが苦笑を交えながら諦め顔で部屋へと入ってきたカークへと言葉をかけた。柔らかでありながら凛とした視線がまっすぐと自分へと向けられる
のを感じ、先程までとは違った緊張感に心臓が飛び跳ねるように鼓動を刻んでいく。予想もしなかった人の登場に驚きのあまりぶれたレイアの体を
力強い手が抱き留めた。

「大丈夫か」

「……へ、平気ですっ」

伝わってくる熱から逃れるように慌てて体を離す。確かめるように覗いてくる瞳が今のレイアには苦しく感じられた。

「兄上、反則ですわよ」

「反則って何が」

「もうっ、わかっていてそう言われるのね。己の護衛官の審査には立ち会えないでしょう」

公平を図るため護衛官の審査時に護衛対象者は立ち会うことができない。直接審査を判定できないのはもちろんだが、護衛官への様々な影響力が
多少なりとも考えられる為だ。護衛隊長であるガウルとも通じているカークが知らないなどあるはずがない。
それに頑固なほど公正に拘るガウルがいくらカークと言えど特例を設けるなどしないだろう。それならどうして忙しいはずのカークがこの場にいるのだろうか。

「もちろんわかっている。でも審査前に会ってはいけないと言う決まりはない」

「兄上はレイアのこととなると少したがを外されますのね」

「おまえだって人のことは言えないだろう?」

行動に出るのは自分ばかりではないと返すカークにマリオンは微苦笑を浮かべるとミルフィーンを促してレイアへと励ましの言葉を再度かけると
開け放った扉へと向かって歩き出した。



「レイアなら大丈夫だ」

扉を閉める音が響き、二人だけになった空間でカークの声が響く。確信を持った声がじわじわとレイアの不安定だった心を確固たるものへと正していく。

「俺はレイアに守ってもらいたい。レイアは俺をちゃんと見ていてくれるし俺の無茶を止めてくれる。駄目なら駄目とはっきり言ってくれる。
 俺にはレイアしかいない。他の誰かじゃなくレイアに俺の側にいて欲しいし俺も守りたい」

告白とも取れる熱の籠った視線と言葉にレイアの頬がどんどんと赤く染まってくる。

「意味が、違うんじゃないですか。貴方をお守りするだけの言葉では過分です」

「違わない。俺はレイアが立派な護衛官だと思っているからこそ俺も守りたいんだ。だから側にいて俺がちゃんとできるよう見ていて欲しい」

護衛官として認めてくれている。その言葉を貰ったとたんレイアの中から頑なな心が崩れ去るような気がした。

私欲を持ってカークの側にいて守れるのかと思った。護衛官としてのプライドと一人の人間としての気持ち。
本来なら自分の気持ちなど持っていて護衛対象を守っていてはいつかほころびができる時がくるだろう。
でも護衛官としての自分を上回るほどの守りたい気持ちがカークの気持ちを嬉しいと思ってしまう。
そして絶対にカークの護衛を他の者には譲れない気持ちがより護衛官としての自分を高めているように感じられた。

「あなたの護衛官は私です」

「もちろん」

絶対的な信頼がレイアの神経を研ぎすましてくれる。黙って見送ってくれる大切な人へ向けた表情からは先程までの不安が拭い去られていた。



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