準備は万全!
「ミルフィーン、これは?」
「それはそこにあるお皿に並べてくれるかしら。マリオンが素敵って思える感じに」
「了解。責任重大ね」
いろんな形に焼かれたクッキーが大きなお皿に並べられて行く。
あら熱が取られた焼き菓子はミルフィーンが今日の昼に焼き上げたものだ。
一つずつ丁寧に心を込めて。
売り物やお城のお茶会に出てくるお菓子のような派手さはないが逆に飾っていない素朴な感じがどこかほっとさせてくれる。
「ミルフィーン。私は何をやったら……」
「レイア様はお皿を並べて頂けますか?小さなものと大きなもの2枚」
確実に指示を出していくミルフィーンは普段のどこかおっとりとした彼女とは違いかなりてきぱきしている。
もちろん普段がゆっくりすぎるということはないのだが急いでいる感じがしないのでこういった時は違うと思えるのだろう。
レイアも大分慣れたとはいえ、まだどこか戸惑っているようだった。
「出来立てを食べるものは後にして、あ、お湯が沸いた」
湧きたてのお湯でやけどをしないように静かにポットに注ぐ。もちろんカップも一緒に温めて。
「さあ、今日は何にします?」
「私アップルティー」
「私はあたたかいものであればなんでも」
「だめよ、レイア!もっと自己主張しなくちゃ!」
「え、あのっ私よくわからなくて本当になんでも」
「マリオン。これだけ種類があったらなかなかわからないわよ。
あなたは私と一緒にお茶を飲んでるから知っているけど」
そうでしょ、とマリオンを窘める。
ワゴンに並べられた紅茶は10種類を超えていて確かに見ているだけでは葉の大きさくらいしかわからない。
「でも季節柄アップルティーはいいわね。今日のお菓子の味の邪魔もしないし。
そうしましょう。じゃあ、葉っぱは主張し過ぎるものはやめて、あと……」
お皿の上によけてあったりんごの皮を用意し温めておいたポットやカップのお湯を捨てる。
「葉をいれてりんごの皮をいれて。本当は干して乾燥させておいたものの方が香りがいいんだけど
フレッシュな味もいいからまたそれは今度にしましょう」
高い位置からポットへとお湯を注ぐ。
「あとは2分くらいかしら。あまり置き過ぎても苦くなってしまうしね」
「そうね。これで本当は服も変えた方がいいのかもしれないけれど」
そう言いながらマリオンがチラッとレイアの方を見る。
視線に気がついたレイアが慌てる様子に小さく口を上げながらミルフィーンはマリオンへと制止をかけた。
「マリオン、あなたが何を期待しているのかはわかるけど今回は私達だけのお茶会だからランドルフ達を呼んだ時にしましょう。
あなたも堅苦しいのは好きじゃないでしょう?」
「そうだけど私レイアのいつもと違う姿を見るのが好きなのっ。ミルフィーンだってレイアの正装は見たいでしょ」
「ええ。素敵よね」
ほんのりと恥ずかしそうに頬を染めるレイアの姿はいつものりりしい姿とは違って年相応の姿そのものだ。
そういった姿を見られるのも小さくても楽しいお茶会だから。肩をはるものではなく、本当に心を許した人だけの空間。
食べることももちろんだけど楽しい時間を過ごしたいからお茶会はやめられない。
「さあ、そろそろお茶を入れるから席について下さい」
「お願いね。これで準備は万全かしら!」
準備する時間もお茶会の一部。
公式のお茶会なんてつまらない。だってみんなの笑顔が、いろんな表情が見られる所だから。
だから何度でも。さあ、お茶会を開きましょう!
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