祈り
シェルフィスは部屋の奥にある棚を開けると一番上段の簡単には見えない位置に置いてあるそれを取りだした。
広い書庫の中、その場所は死角になっており余程注意をしなければ気付くこともないだろう。
目的の本を探すだけならそこに近づくこともないに違いない。もし気付き不思議に思って手を掛けたとしても
中が見えず鍵がかかっているとなれば興味はすぐに薄れ他へと視線も移るものだ。
今までに訪れた者に何が入っているかなど聞かれたこともなかった。
「……大丈夫のようだ」
巻いてあった布を解き現れたのは己の腕の長さほどの銀色に光る小剣だった。飾りのない鞘は実用的であろうことを物語っている。
シェルフィスは片手で鞘を持ち柄を持つと一気に抜き去った。
「輝きは失っていない」
唯一自分に残された過去の形あるもの。憎しみと悔しさ、そして悲しみに溢れた冷たい過去を。
決して形見だけではない、いつでも手に取り振るうことができるものだった。だがあえて自分の身に付けぬようにし、
すぐにでも手に届く所に置くことで自分の心を律することができるよう封印した。
「どうなるかわからないのは厳しいな」
今でも負の感情は己の中で燻り続けている。いくら時間が起とうともきれいに消え去ることはないだろう。
その憎しみの対象を目の前にして自分を見失うようなことがあればそれは自分の命が尽きる時なのだと思っている。
「少しは悲しんでくれるだろうか」
最後に見る光景が幸せを運んでくれるのならきっと後悔をすることはない。この瞳に焼きつくのが輝かしい笑顔であるように
それだけは願い、祈る。たとえそれが矛盾した願いだとしても。
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