不意打ち



「カーク様、待って下さいカーク様!」

「レイア」

カークは足早に歩いていた足を止めると私の方へ振り返り微笑んだ。

その笑みは甘い。思わず見惚れて言葉を失ってしまった私を不思議そうに見つめる姿に我を取り戻すと
何とか平静を装ってカークへと言葉をかけた。

「今日の予定ですがお聞きになりましたか」

「変更のこと?ああ、聞いたよ」

毎日予定が詰まっているカークだが今日のように突然変更になったり時間が空いたりすることもある。その度にカークも
周りの人間も必死になって対応するが今回は割と早く分かったせいなのか辺りは静まり返っていた。

「カーク様、お付きの方はどうされました?」

「ああ、他が準備の対応に追われていてね。そちらの手伝いへ行ってもらった」

「手伝いに、ですか?」

じゃあ今まで一人で?

「カーク様っ!」

いくら城内、短時間とはいえたった一人でいるなんて!ここはいつもいる王族専用の敷地内じゃない。
外部の者も出入りする場所だ。そんな所を世継ともあろう人が、しかも……

「剣はどうしたんですか?丸腰じゃないですか!!」

「ああ、気になる所があって修理に出しているんだ。もうすぐ直るとは思うけど」

「修理?!いつものが駄目なら代わりのものでも短剣でもかまいませんっ、帯刀して下さい!」

「だって城の中じゃないか。人目もあるし危険なことは……」

「絶対とは言い切れないでしょう?!何かあったらどうするんですかっ」

護衛の者もつけず一人でふらふらとするなんて。

いくらカーク様に言われたとしても簡単に側を離れるなんて一緒にいた者も問題はある。あるけれど、王族という自覚を
しっかり持っているはずなのにたまにこうして危ないと思うことを平気でやるんだから。カーク様は!
よりにもよって私がついていられない時にどうしてこんなことをするんだろう。
何もなかったからまだいいものを、出くわしたり後から聞かされるのは心臓に悪いってわかっているんだろうか。

「剣がなくても自分の身が守れるくらいの腕はあるつもりだよ」

「そういう問題ではありませんっ」

「でも、辺りに神経を配ってるしなるべく外が見える方には寄らないようにしている。でもそうだな。
 確かに気が抜けていたのかもしれないか」

ごめんと言うカークに私は肩の力を抜いた。

「何もなくて良かった。ここからは私が護衛に付きます」

「え?でもレイアの予定は?」

「もうすみました。変更の確認をとるためにあなたを捜していたので。あとは次の場所までお送りするのが私の仕事です」

次の場所までだったがどうにも気になる。今日は特に急ぎのものもないし他の者に代わってもらっても十分に対応できる。
ガウルに頼んでこのままカークの護衛につかせてもらおうか。

「ありがとう。やっぱりレイアだと安心だ」

肩の力を抜いて張り詰めていた神経を緩めて。

見ていて直ぐにわかってしまうその表情と仕草に不意を突かれ一気に上がってくる熱を隠そうと私は慌てて後ろを向き
やっぱり今日は一日護衛に付こうと思ったのだった。



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