本当の自分
昔からこの道以外を選んだことはなかった。ひたすら努力し突き進んだ結果手に入れたものだ。
嬉しいし自分が誇りでもあった。あこがれの人に近づくことができ自分の願いも叶えることができたのだから。
そのはずだった。
それなのにいつからか今以外の自分になることができていたらと思うようになっていた。
ふとした時に気付く自分の姿に自然とため息が出ていることがある。もう少し違う自分になっていたなら、と。
骨格やもとから生まれ持ったものを変えることはできない。でも、この手。
剣を持つようになってから変わってしまったこの手がもう少したおやかであったらと思う時がある。
己の手で守ることができるものがあると知った時から剣を握り続けてきた。そのことに後悔はない。
後悔はないはずなのにただ一人のために望んでしまう。もし違った道を歩んでいたのなら他の女性達と同じように
手を取られてもその手から逃れるようなことはしなくてすむと。
「レイアは俺と一緒にいたくないのか?」
「いいえ、そんなことありませんっっ」
「じゃあ何故だ?」
けして強い言葉ではない。それなのに答えられずにはいられない強い意志を伴っている。
強制力はないのにその瞳から逸らすことができずレイアは黙っていることを断念した。
「俺は好きだ」
言葉と同時に手に触れた指がそっと触れていく。表面を一通り滑らせるとレイアより大きな手が手を包み込むように握り締めた。
「俺を守ってくれる大切な手だ」
もちろん俺もレイアを守るけど、と言葉が続く。けれどその言葉はもう通り過ぎて行くだけだ。
いつだってそうだ。何気ない一言で救われている。大きな心でカークはレイアを抱きしめてくれる。
みんなと同じじゃなくてもいい。私は私でいいのだと。
今までも今もこれからも全てを含めてレイア・ハルトという一人でいいんだって。
認められなかった自分さえも一緒に支えてくれるのだ。だから私は自分でいられる。
これからもずっと。
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