春を迎えて



「うっわー、きれい〜!!」

寒さも和らいで着ている服も柔らかな色になってきたある日。桜で有名な公園に二人は来ていた。

「ちょうど見頃だね」

「早めに来て良かったわ」

まだ満開には日があり七分咲きといったところか。休日にしては早い時間にも関わらずあちこちに大勢の人が集まっていた。
ここは住宅地の一角にある公園のため、アルコールはもちろん宴会など大きな声を立てるような行為は禁止されている。
それにも関わらず人が来ているのは純粋に花を楽しむためであろう。人々の顔は上を見ては笑いほころんでいた。

、この辺でいい?」

「そうね、あまり近すぎるより少し離れていた方がきれいに見られるから」

持ってきたビニールシートを二人でゆったり座れるように広げる。敷物と言うよりまさにシートのおしゃれでもなんでもないものだが
二人でもゆったりと座れるし荷物を離して置いてもまだ余裕があるからこの方がいい。靴を脱いで足を延ばすと一緒に腕も思いっきり
伸ばした。

「あ〜気持ちいいなぁ」

「天気もいいし、ゆったりできるしね」

鳥は気持ちよく囀り、風は静かに春を連れているかのように花びらを運んでくる。ポカポカ陽気に心地よい眠りさえ訪れそうだ。

「でもきれいなのもあと少しかぁ」

なんか儚いよねと小さく呟く沙耶の表情は固い。きっと散っていく花に想いを寄せているのだろう。
儚くて寂しいと思う沙耶は愛おしいけどあまり心を痛めて欲しくはない。いつも元気で笑顔の姿を見ていたい。

「また咲くわ。来年も再来年も今よりももっと強く、もっと綺麗に」

永遠はないかもしれないけれどそんなに簡単に変わりもしない。たとえ変わってしまったとしても心から消えることはない。
心の片隅にひっそりと残っているから、だからそんなに悲しまないで。

「そうね、ずっと続いて行くんだよね」

「そうよ。だから春を迎えるためにこれを」

「やった〜、お花見団子だ〜!」

「いろいろ諸説あるけどね、お花見団子は春を表しているのよ」

「春を?」

「ピンクは太陽や桜、白は白酒、緑はよもぎをね」

「お団子の刺されている順番も決まっているの?」

「上からね。あと一本で桜だと言う説もあるの。ピンクがつぼみ、白が花、緑が葉なんだって」

「へぇ〜、昔の人ってすごいね」

すっかり感心している沙耶にほっとする。やっぱり沙耶には笑顔が似合っている。勝手かもしれないけれどそれがの元気の元でもあるのだから。

、食べよう!えっと、飲み物は……」

「ここにお湯を入れてきたからこれで」

「えっ、お湯?」

「急須とお茶の葉も持ってきたから」

「わざわざ持ってきてくれたの?!」

「どうせなら入れたてを飲みたいじゃない。さすがにポットは重くて持ってこられなかったから少し冷めていると思うけど」

「十分、って言うか最高だよ!」

空には透き通る青空、そして輝く太陽に淡いピンク色が映える。何気ない一日のひとときだけど本当に最高の気分だった。



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