暗流 



眼下に広がる緑の海。連なる渓谷とこの緑がカークが将来治めるであろう国の姿だ。
けして大きくはないが自然と共に生き、あるがままを受け入れ、人々の笑顔が溢れる豊さがある。

「風が強いな」

時々城の塔に登りたくなる。重責に弱音を吐きそうになり全てがどうでも良いかと投げ打ちそうになる時
戒めの為にも必要な習慣となっていた。

「あなたの代になってからなんて言っていたら遅いことだってあるんですよ」

頭の中に残るのは一人の男の言葉。何度と会った男がカーク一人に躊躇いがちに残した言葉だった。

第一後継者として国の基盤を知るために様々な勉強や会談・商談などに立ち会うことがある。
いくら恵まれているとはいえ、全てを国の中だけで賄うことはできない。その為、必要に応じた他国からの人間を
迎えることがあり中でも衣食住のものを取り扱う商人は重要な役目を担っていたがカークはそれ以上に彼らが
持ってくる情報や知識を重要視していた。

「もっと大々的に国交を開かれたらどうでしょうか」

自らの利益向上を見込んでの発言だったがこの国の閉鎖的とも取れる状況を見ての一言だった。

「我が国は他国との交流を拒んでいる訳ではありません」

厳しい地形と人々の満たされた環境が今以上の他国との交流を余儀なくさせているのだが、その状況を知る機会のない
他国の人間にそれを理解しろと言った所で簡単には理解できないだろう。いや、むしろ発展を望まない理由としか
取らないかもかもしれない。現に親交が深いと言ってもいいこの男でさえそう捉えているくらいだ。
他国の中枢部の人間などはもっと酷く見ているかもしれない。

「あなたはもっとたくさんのことを知ることが必要です」

疲れた表情で退出した商人はどこか諦めも匂わしていた。実際に動くことはないだろうと。

「わかっているさ」

わかっていてもできないこともある。
痛いほどの言葉をもらっても一人でできることなど限られている。時間と理解と力が必要だった。

「でもやらなくては。たとえ少しずつでも、この身が苦しくても」

この国が、人々が好きだから。大好きなものを守るために。



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