雨続きの空



しとしとと降り続く雨。空は雲に覆われ空気は冷たく体に纏う。

「うっとおしい」

お気に入りのショウガ入りのミルクティーを飲んでも冷え切った心や体は少しも温まらない。

「結婚ね……」

天気も心も晴れ晴れしない。あまりにも現実的なことに頭の中がクルクル回る。考えなくてはいけないことを後回しにしていたから
こうして今自分の身へと降りかかってきたのだろうか。

「憂鬱だわ」

「何が?」

らしくもなく肘をついて頭を抱えてしまったの気持ちを救うかのように明るい声が掛けられると見慣れた顔がひょっこりと現れた。

「沙耶」

「遅れてごめんね、待った?」

「まだ約束の時間前よ」

中身の残ったティーカップを横に避けは背筋を伸ばし座りなおした。


                     *

「う〜ん、アップルティーおいしい!」

おいしい紅茶を飲めてうれしいと沙耶の顔には満面の笑みが零れている。そんな沙耶を見ながらは追加で頼んだハーブティーを
一口飲んだが先程のミルクの残った口には優しすぎて味が全く分からなかった。

「で、何が憂鬱なの?」

「ん?天気がね」

「う、そ」

「嘘じゃないわ」

「それもあるかもしれないけどそれだけじゃないでしょう?もう、いつもって一人で頑張るんだもん。
 たまには頼ってくれてもいいじゃない。まあ、確かに頼りないってことは自分でも思うけど」

「沙耶のこと信頼してる」

「じゃあ、話してくれるよね」

「……もう、沙耶ったら……聞いてて気持ちのいい話じゃないかも」

「大丈夫!一度もそんなこと思ったことないよ。話して?」

「後悔しても知らないわよ」

無邪気でいながらも真剣に話を聞こうとする態度の沙耶に諦めたように小さく息を吐くとは話を切り出した。

「結婚について考えていたの」

「結婚?、結婚するの?!」

「ううん、そんな訳ないでしょ!」

ずるい、そんな話聞いてない、と興奮する沙耶の肩を慌てて抑える。今まで彼氏の話なんてしたことがないのに
何故一言で即結婚するって考えになるんだろうか。

「私達もいい年齢でしょう。周りからいろいろと言われるようになったって言うのもあるんだけど母親がちょっと情緒不安定になるくらい
 言ってくるようになったの。それが聞きたくないしその所為で会いたくなくって避けちゃってね」

「でも実際に話がある訳じゃないでしょ」

「うーん」

「あるってこと!?」

「紹介の話だけど」

昔ならともかく今の時代紹介やらお見合いやらの話は余程人付き合いのある人かそういったことに伝手がある人でないと
なかなかこない。の母親は趣味の習い事に行っているせいかその教室で話をもらってきたようなのだ。
いい話だから一度会ってみろと言う。

「母の言うこともわかるけれど結局は自分の気持ちだから覚悟の一つも決まってからでないとしたくないわけ。
 だってそんなふらふらの気持ちで会ってみてあっと言う間に言葉巧みにまとめられてしまったら自分の中に
 変なわだかまりが残るのは目に見えているもの。
 お見合いが嫌じゃなくてそんな風に決まってしまうのが嫌なの」

「いくらいい人でも?」

「第一印象が良くて付き合ううちに好きになったとしても何かの時に自分が決めたんじゃない、
 親が決めたんだって思うんじゃないかしら」

がそんなこと思うなんて考えられないけどなぁ」

「沙耶、私のこと買いかぶり過ぎ。自分で結婚しようって覚悟を決めなくちゃいくらいい人だろうと条件が良かろうと
 他の人のせいにしてしまうと思うわ」

どうせ結婚するなら少しでも自分にプラスになる結婚がしたい。そこにはもちろん打算もある。物理的にもそうだけど
精神的に楽しく過ごしたいからだ。自分は恋愛するタイプではないし結婚するとしたらたぶん紹介かお見合いになるとは
思っているがそれでも自分で納得できない限り結婚はしたくない。世間体や小さなプライドよりも自分の意志を曲げたくない。
それを周りは頑固だと言うかもしれないが。

「ちゃんと見えてるね」

「そうかな」

「そうだよ。自分でどうしたいかわかってる」

「沙耶が聞いてくれたからよ。話しているうちに気持ちや考えが整頓できたんじゃないかしら」

沙耶と自分はタイプが違う。最初はとまどったけれど接しているうちにいろんなことを教えられて考えて楽しく過ごすことができた。

ありがとう、と言うと沙耶が少し照れくさそうに髪をいじる。同性の目から見てもとてもかわいらしい仕草と表情だった。

「遅くなっちゃったわね。雨も止んだしお店でも見に行きましょう」

「賛成!私部屋に置きたいものがあるの!」

行こうと席を立つ沙耶に返事をするとも立ち上がる。
窓の外の空は黒ずんだ雲がまだ幾重にも重なりいつまた雨が降るとも言えない。
当分傘は手放せないだろう。
だが空の一角の雲間からはその暗さを吹き飛ばすほどの眩しい一筋の光が射しこんでいた。



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