想いの絆



暗闇の中、俺を呼ぶ声が聞こえる。
全てを憎み解き放て。世界を混沌へと導け、と。

嫌だ、やめろっ!
俺が俺でなくなる。この闇から出られなくなる。
やめろ……やめてくれっ!!
俺を支配するのは。俺に絶望を与えるのは!

助けて、助けてくれ。
頼む。誰か…誰か……っ!



                                 *

体にかけられた布を思い切り撥ね退けヴァルアスは飛び起きた。

「ハァハァハァ」

ベッドの上、ヴァルアスの息が止まることなく、激しく吐き出される。

「ゆ、め…か……」

知らないうちに緊張していた身体が一気に脱力し、全精神力を使い果たしたかのように疲れが
ドッと押し寄せた。

「いいかげんにしてくれ……」

力なく呟き、両手で顔を覆う。
ここのところ毎晩夢にうなされ苦しむその姿はげっそりとやつれ、いつもの生気溢れるヴァルアスからは
想像も付かないほどだった。

……」

心が求めてやまない。大切な愛しい人が傍にいない。
それだけで自分はこうも変わってしまう。

、おまえに会いたい」

自分達の絆は深い。外からだけではなく、内側から魂から繋がっている。
が病気で苦しんでいる現在、自分は会いに行くことができない。
自分の感情がこの世界に再び影響を与えてしまう可能性がないとは言えないから。
だが会いたいと言う気持ちが止めどなく溢れてくる。

「さびしいんだ」

握り締めた拳が小刻みに震える。

「おまえがいないことで俺はこんなにも空虚になる。胸が苦しくなる。
 一人に慣れたはずの俺がこれ程弱かったなんてな」

ため息と共に自嘲気味に呟く。

。早く俺の所に戻ってきてくれ」

おまえの傍にいたい。おまえの声が聞きたい。おまえに触れたい。おまえの全てが足りない。
不足だらけの俺を満たしてくれ。早く、もっと。

「俺の心を照らす月。、おまえが欲しい。こんなにも」

闇よ、夜よ、過ぎ去れ。清らかなる月よ。俺を浄化してくれ。
おまえを全身で感じ取れる程に。



                                 *


「う〜ん、いい天気」

私はベッドの中で大きく伸びをした。
窓から射す太陽の光が久しぶりに気持ちよく感じる。
病気との格闘のせいで体力が少々落ちた身体を慣らすようにゆっくりと起き出し始めた時、
バタバタと大きな足音が聞こえたかと思うと扉が勢いよく開いた。

!」

私を呼ぶ声と共にヴァルアスが部屋へ飛び込んできた。
肩は苦しそうに上下をし、息は大きく乱れている。
まだ着替えもしていない朝からの訪問に私は顔をしかめると近づいてくるヴァルアスに注意しようと口を開いた。

「ヴァルアス。また……」

ヴァルアスは私の言葉を遮るように引き寄せると、伸ばした腕で強く抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと。ヴァルアス」

「……った」

心地よさに流されかけた自分を振り切るように慌てて出した声に小さな呟きが重なった。

「えっ」

「よかった。おまえが元気になって」

ヴァルアスの顔に安堵と喜びが浮かんでいる。
大げさにも取れかねない言葉に私は顔を上げると、ヴァルアスの真剣な表情とぶつかった。

「おまえの、の傍にいられなかったこの数日間、言葉で言い表せないほど辛かった」

ゆっくりと囁かれる言葉。
たくさん紡がれるヴァルアスの言葉より、言葉少ない方が深く強く想いを感じる。

私も、と開きかけた唇を塞がれる。
全ての想いを込めたようなキス。
たった数日の時間、自分達がどれ程お互いに飢えていたのかを伝えるようなキス。
不安な夜を越え朝を迎えたように、くすぶり続けた心も光に照らされる。

……!」

お互いを思う気持ち。言葉に出さなくても心の中に自然と流れこんでくる。
視線と、温もりと、お互いの呼吸。それだけで幸福を感じ取れる。

自分達の気持ちは揺ぎ無いものだということを。



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