贈りもの 
      
  



空は青く、風は涼やかで天気は良好だ。だが、それとは裏腹に私の心は晴れやかとはいかなかった。

「これはいったいどういうことなんですか?」

横にいるサーシェスに強い視線をぶつける。
これだけ近くにいるのだ。不機嫌な気配をわかりすぎるくらいわかっているはずなのに、まったく意にも介していない。
それどころか、声が聞こえているのかどうか。先程から一言も発さずひたすらまっすぐへと突き進んで行く。
これが城内なら珍しい光景でもないが、城外しかも街の中であることを考えれば滅多にないことだろう。いや、今までに一度もなかった。
というか、それほど何度も二人きりで街に降りたこともないのだけれど。こんな急にしかも何も知らされず連れてこられるなど初めてのことだった。

「今日の業務はよろしいのですか?確か今日中に片付けなくてはならないものがあったはずでは?」

把握している限りでは最低でも二件は今日締め切りのものがある。昨日私が帰る時点でそれらは手つかずだった。それ以外にも近日中に片付けなくては
ならないものも山となっていた。こんな街に出る余裕などないはずなのに。

「……今日中のものは昨日のうちに片付けた。それ以外のものもちゃんと把握している。大丈夫だ」

前を向いたまま、応える声に淀みはない。あれだけ大量にある書類の中身も目を通し、時間の配分もしたのだろうか。

ああ、他の人なら無理でもサーシェスならやってのけるだろう。それだけの能力はあるし彼自身のプライドにかけて嘘など言わない。
それならばよけいになぜこんな急な行動を起こすのだろうか。

「ぶっっ」

考えに陥っていた私はいきなり立ち止まった背中に思いっきり顔をぶつけてしまった。

「ちょっとっどうし……」

「見たからだ」

私を遮るようにサーシェスが声を重ねる。

「見たって何を」

「おまえが奴から受け取っているのを」

「受け取る……?」

奴、受け取るって何のことかな。最近のことだと思う。奴というには私にもサーシェスにも身近で、仕事に関係する人といえば。

「あっ」

ひょっとしてあのこと?

「ヴァルアスのことを言っているんですか?」

数日前にヴァルアスからもらったもの。最近頑張っているからと私にくれた。予期していなかっただけにすごく嬉しかった。
あの時、誰も傍にはいなかったはずなのに。

「……私、俺にだっておまえには……には感謝しているんだ。労りたいとずっと思っていた。
 それなのに、あいつはあんなに簡単に俺より先に言えるんだっ!」

だから仕事を詰めてまで時間を調整してくれたのだろうか。私に贈りものを贈ろうと思って?

「本当は一人で探したかったが、何がいいかわからなかった。時間があまりないからな、本人に選んでもらった方が無駄をかけなくていい」

矢継ぎ早に言い、そっぽを向く顔は私よりずっと高い位置にあるからしっかりとは見えないが、ほんのり赤くなっているようだ。
一人で選びたかったのは本当だろう。でもそれにしても

「ふふっ、ふふふっ」

なんてサーシェスらしいのだろう。時間も労力も無駄にはしない。しかもしっかりとヴァルアスに対抗している。
サーシェスならいくらでも己の権力を持って良い質のものを手に入れることができるのに、あえて同じ位置に立って私に相応しいものを手に入れようとしている。
でもそれはヴァルアスに対しての対抗心だけじゃなくて嫉妬も含まれているととってもいいのだろうか。

「何を笑っている。時間は限られている。おまえが欲しいと思うものを言え。早く行くぞ、

「はいっ」

差し出された手をぎゅっと握る。早く選ばないとお小言が来るだろう。
でもそれさえも楽しいと思える忙しい中のひとときの時間だった。



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